7 プライドは、底辺なりに 1
「がふっ! ぐっ!」
そして翌日。
今日も槻谷くんはカモられている。毎度毎度飽きないよな、チャラ男軍団。
まあ、毎度毎度、傍観者になってしまう俺も俺なわけだが。やられる方が悪いのだ、と悟っていても、今の俺はガキ一人助けられない猫畜生に過ぎないことが分かっていても。
どうしても、せめてやられるところは見守ってやろうという、わけのわからない使命感に駆られて、毎日毎日ここで足止めを食らってしまう。
いじめになんか関わっている暇ないのにな。そもそも何にもできねぇじゃん、俺。
チャラ男を爪でひっかくとかは出来るけど、この手の奴らって、猫とか小動物とか、リンチして殺しかねない。なので、俺は手を出せない。
「槻谷くーん、またお金忘れちゃったのー?」
「……もう、お金がないんだ」
「だったら、親から融資してもらえよ。お金なくちゃおひるごはん食べられないでしょー? っとぉ!」
そう下衆な提案をしつつ、ボディブローを決める。
「がはっ!」
槻谷が身体をくの字に折った。チャラ男は眉根を寄せた。
「本当にお前、金持ってないの? こっちのバッグにはお小遣いないのかなー?」
「や、やめ……」
「御開帳~~」
三人組の一人が、槻谷の静止を無視しながら、無慈悲にバッグを空ける。
「何だ、槻谷くん、いつから弁当派になったの?」
「うわ、俺たちへのあてつけとしても、ここまでやられると傷つくわー」
いじめている方の一人が、忌まわしいものでも見るかのように眉をしかめながら、槻谷が弁当として持ってきていた、ラップに包まれたサンドイッチを取り出す。
「弁当なんかじゃ、栄養つかないよ? 少なくとも、俺たちの胃袋がね」
そう言って、サンドイッチを足元に落とすと、グリグリと踏みつける。
槻谷の顔に、絶望の色が刻まれる。
理不尽すぎる事を嘆くが、その理不尽さに抗う術もなく、ただただ悔しい思いをしながら流される時の、放心したような表情。
「カワイソ! 槻谷くん、ホントにカワイソ!」
「うっわ、サイテーだな、お前!」
「だっひゃっひゃっ!」
三人はバカ笑いしながら、這いつくばっていた槻谷をさらに痛めつけようと、再び囲みにかかる。
そのとき、旧校舎に面した通路の曲がり角から、鈴を転がすような声が聞こえてきた。
「ししゃも~~!!! ししゃも! どこにいるの~~!?」
紛うことなき、柊の声だ。
あのチキン、影で隠れて見てたのか?
ともあれ、勇気を出したようだな。
「にゃー」
俺はこれみよがしに大声で鳴いてやる。
すると三人組は柊の声がした方と俺を交互に見やり、大きく舌打ちをした。
「行こうぜ」
「槻谷くん、チクるなよ? 僕たち友達だから、傷ついたら何するかわからないよ」
「お、おい……面倒なことにならないよな……」
最後に言葉を発した奴は若干怯えの入った口調で言う。
三人組は槻谷に背を向けると、旧校舎裏から、足早に退散していった。
途中、スクールバッグを肩から下げた柊が三人組とすれ違ったが、柊は彼らに一瞥をくれただけで何も言わず、そのまま俺と槻谷の方へ向かってきた。
やるじゃん、柊。
俺は内心、舌を巻いていた。
もちろん、いじめを直接止めに入ったわけでもない。
でも、柊はチキンのくせに、自分の出来ることを、最大限機転を利かせて勇気ある行動をした。
俺はネタに使われたわけだが、なんというか、グッジョブだったぜ。ほんと。