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吾輩が、猫ですかっ?! ~幸せは猫とともに~  作者: 小山洋典
柊をぼっち飯から解放しよう!
17/52

5 屋上にて 2

 びくん、と西沢の体が跳ね上がり、情けない表情で後ろを振り返る。

 それから、柊に助けを求めるように目配せをすると、扉をくぐって、屋上へ出た。

 柊と俺も西沢に続く。


「み……西沢……さん……立花まで……なんで?」


 俺たちが姿を見せると、槻谷はびっくりしたように眉を上げた。

 そんな槻谷に、どことなくバツが悪そうな声で、西沢が答える。


「あ、あー、槻谷。あなた、こんなとこで何やってるのかしら?」

「な、なんだっていいだろ……」

「あ、そう……」


 柊は何か奥歯に物が詰まったような話し方の西沢を訝しげに見やる。

 そして俺の方を見ると、柊は肩をすくめて、槻谷に話しかけた。


「あんたが、屋上のフェンス越しに見えたから、こっちは焦って駆けつけたんだよ」

「……ッ! なんだよ、関係ないだろ、僕のことなんか……」

「まあ、それはそうなんだけど。西沢も心配したんじゃない? 私たちより早く来てたし」


 不意に、西沢の顔が赤くなった気がした。

 なんだろうな、さっきからこのふたりの違和感?


「西沢……さんが? 関係ないよ。ここで昼食にしようとしてただけだよ」


 吐き捨てるように言う槻谷に、西沢はやや音程の外れた声で、嗤うように言った。


「へー、こ、こんなところでご飯食べてるの? ちょっと寂しくない?」

「……余計な心配だよ。君には関係ないだろ?」

「そ、そりゃ……関係、ない……けど。……槻谷さ、クラスのみんなともっと関わるようにしないと、いつまでもぼっちだよ」


 瞬間、今度は槻谷の顔が、耳の先まで一気に紅潮した。


「そんなこと言われないでもわかってる! なんだよ、クラス上位カースト様の余裕? 君に何がわかる?」

「そういうところが駄目なのよ! 槻谷、クラスと交わろうと、少しでも努力したことあるっていうの?」

「したさ! お前なんかに分かるかよ! どれだけ僕が苦しんできたか! 頑張ったけど、僕が死んでも、誰も気にしもしないさ! それをわかりもしないで!」


 うぐっ、という感じで、西沢が押し黙る。

 そのまま泣きそうな顔で槻谷から視線を逸らしたが、柊と目が合うと、はっとした表情になって、再び槻谷に向き直る。


「そんなのわかるわけないじゃない! どうせ死ぬ勇気なんてないんでしょ? 心配して損した!」


 西沢は拗ねたように言葉を叩きつけると、そのまま踵を返す。

 一瞬、柊の視線を受けて僅かに上半身をのけぞらせるが、そのまま前傾姿勢になり、つかつかと旧校舎の階段を降りていった。

 柊は再び肩をすくめると、大きくため息をついて、槻谷に語りかける。


「ねぇ」

「……なに? お前も僕に説教?」

「ううん。……そうかもしれないね、って思った。底辺は、辛いよね」


 柊は俺の方へ屈むと、ずっと俺が咥えて離さなかった弁当袋を優しく俺の口から外した。


「でもね、自分が死んでも、誰も気にしないっていうのは違うかもしれない」

「………?」

「今のやりとり見ただけでも、西沢は気にしそうだよ? クラス委員だからかもしれないけど。……私にしたのと同じように」

「……お前は、僕と同じ底辺なのに、生きてることに意味を見出してるの?」

「さあ」


 柊は首を左右に振る。

 そして、槻谷にその心を鷲掴みにするような問い掛けを発する。


「今、本当は、死にたいほど辛いんだね」

「……どうせ僕の人生なんて何をやっても変わらないよ。……はは、そうだな、お前の言うとおり、辛いのかもしれない。次の誕生日までに奇跡でも起こらなかったら、人生にリセットでもかけようかな」


 自嘲するように、槻谷は口を歪めて両手を広げた。

 あ〜、めんどくせ、自虐、ここに極まれりだよ。俺はうんざりした。

 この手の輩は捻くれているから底辺なのか、底辺だから捻くれてるのか、いまいちよくわからん。


「辛いのはわかるけど……死ぬの?」

「…………」


 柊は、大げさにため息をついた。


「別に止めないけどさ。自己憐憫もほどほどにしときなよ。私たちみたいなのはいくら自分を虐めても、同情すら買えずに碌な事がないって、思い知ってるはずでしょ?」

「同情なんて……」

「まあ、たしかに。正直憐れみって鬱陶しいけどね」

「………」


 柊はひとつ笑顔を見せると、手にした弁当袋を両手で胸のあたりに持ち上げた。


「ところで……さ」

「なんだよ?」

「ご飯食べるなら……一緒にしていい?」


 なんとおお!?

 まさかの急展開! こんなところでぼっち飯解消!?

 やるじゃん、柊! そして女の子の好意にはヘタれるなよ、槻谷!

 槻谷は素っ頓狂な顔をして、わずかに頬を染めて俯いた。


「……別に……いいけど……」


 うおっしゃあああああああ!

 やったぜ! また、見事に試練クリア!

 ドヤ顔で重々しく『試練』押し付けてきた神ざまぁ。

 まあ、俺にかかれば、こんなもん楽勝っつーの?

 ――そのとき、新校舎のほうから、

 キーン コーン カーン コーン


「……あ」

「あ」


 無情にも昼休憩を終える予鈴が鳴った。

 ノオオオオ! 何でこんなときにタイムアップ?

 俺が神を呪い殺さんばかりに身悶えしたのは言うまでもない。

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