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吾輩が、猫ですかっ?! ~幸せは猫とともに~  作者: 小山洋典
柊をぼっち飯から解放しよう!
16/52

4 屋上にて 1

 猫になってからというもの、物事は常に唐突に起こるようになった。


 ……とはいえ、唐突すぎるんだよ、あのガキ!

 俺は思わず神と少年に悪態をつく。いや、今までの経験上、神とやらにはいくら悪態をついてもいいと思うんだが、今はそれ以上にあの少年に怒りに似た思いすら覚えていた。


 旧校舎屋上あたりから一人の人影が背の低いフェンス越しに、こちら、つまり地面を覗き込んでいた。

 距離があり、その姿から人物を特定することはできないが、心当たりはある。むしろありすぎる。

 たしかに自殺すら仄めかしていたけど……俺が学校に来るようになって数日だぞ?

 何このいきなりバッドエンドのフラグバリバリの展開?

 神様はいないの? いや、まあ、いるけどあんな奴だもんな……。

 まったく、槻谷のバカ野郎が! 俺は吐き捨てた。

 久々に、というわけでもないが、流石に俺でも焦るさ。


 人の命なんか軽い。羽毛布団を買う値段よりも安く魂を切り売りして、自決していった社畜なんて、枚挙に暇がないくらいだから。

 だけどさ。

 俺の目の前で飛び降りなんてするなよ。

 何より寝覚めが悪い。PTSDになっちゃう。

 社畜というのは、過酷な労働をくぐり抜けているとはいえ、基本豆腐メンタルだ。

 豆腐メンタル故に、残業も休日出勤も断れないのだ。

 そこら辺、あの少年はわかっているのだろうか?


 今直接屋上に駆け上っても、所詮は猫の身。身投げを制止する力があるとは思えない。

 ならば、頼るべき人間は一人だけだ。

 俺は猫とはいえ「脱兎のごとく」目指すところへ向かう。

 旧校舎裏を抜けて、芝の敷かれた敷地内に。そして、今日もぼっち飯な、そいつを視界に收める。


「あ、ししゃも……どうしたの、そんなに慌て……」


 言葉を言い切る前に、俺は大きくジャンプすると、柊が胸辺りに抱えていた、弁当袋を前足で薙払う。そして、そのまま空中で、噛み付くようにキャッチした。

 そのまま弁当箱を咥え、柊を振り返ると、駆け足で旧校舎へと向かう。もちろん、その間、何回も振り返って、柊を促すことを忘れない。


「ししゃも……何……? なにかあったの?」


 柊もただ事ではない雰囲気を感じ取って、駆け足で追ってきた。

 そして、旧校舎裏にたどり着いた時、俺が見上げた視線をなぞり、屋上に目をやると、口を押さえて息を呑み込む。


「大変……あいつ……?」


 俺と柊は、木造の旧校舎の入口を見つけると、そのまま階段に向かい、駆け上がっていった。


「馬鹿なんだから! 早まったことを……!」


 柊が沈痛な声を発する。

 先行する俺は、旧校舎の四階、屋上に続くと思われる踊り場までたどり着いた。


 ――と。

 階段からは死角になったところに、女生徒の姿があった。壊れているらしい開け放しの扉の影に隠れるように、屋上をチラチラ伺っている。突然そんな人物の後ろ姿が眼前に立ちふさがり、俺はひどく面食らった。

 俺より遅れて、柊が階段を駆け上がってくる音がする。

 それを聞き付けて、その人物が振り返った。


「ひやああう?」


 昨日の柊と同じように、音を立てずに駆け上ってきた俺を視界に収め、その女生徒は飛び上がった。


「な、ななな? ししゃもくん?」

「ししゃも、待って……はあ、はあ……あれ?」


 屋上に向かう階段を上りきり、膝に手をついて息を整えながら、柊が顔だけを上げ、女生徒を睨む。


「に……しざわ……はあはあ……何やって……るの、あんた……」

「え、えーと? なんで立花さんが?」

「質……問に答えなさいよ。屋上で……はあ……何やってたの?」

「そ、その……槻谷が見えた……から……」

「…………?」


 柊は息を整えることに専念して、しばらくして、大きく息をついた。


「槻谷が……? やっぱり、あんたじゃなかったんだ?」

「わ、私も、屋上に影が見えたから、てっきり……」

「槻谷は、自殺するんじゃなかったの?」

「あ、ああ、そういうんじゃないみたいよ?」


 その言葉を聞いて、どっと疲れが押し寄せてくる。

 柊もそれは同じだったようだ。安心したような、呆れたような、ため息を吐く。

 全く、冗談キツイぜ。俺は苦虫を噛み潰す。


 ……ん?

 でも、なんで西沢は旧校舎に何の用があって、槻谷を見つけられたんだ?

 そう首をひねっていると、


「誰か、いるのか!?」


 槻谷少年の、鋭い誰何の声が響いた。

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