表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/52

10 ハッピーエンドはいつのこと?

『明智よ……明智よ……』

「む、出やがったな、神! さあ、試練とやらを乗り越えたぞ。さっさと人間の体に戻しやがれ!」

『しかし、嫌だ』

「なんでだよ! 約束が違うだろ?」

『「第一ミッション」と言っておいたはずだが?』

「そ、それは……こんなことがあと何回も続くのか……?」

『いや、それほど多くない』

「本当か? あと何回くらいなんだ?」

『内緒』

「だから、なんで内緒なんだよ! 不条理すぎんだろ!?」

『まあ、次回は人間の身体に戻してやらんこともない』

「人間の身体に? 俺の身体は今どうなってるんだ? 本当に無事なのか? 会社はどうなっている?」

『刮目して次回を待て』

「一昔前の漫画雑誌の煽りみたいな語句を入れてきやがったな! そう来ると思ってたわ!」

『「第二ミッション」があるまでは、猫のまま正座待機』

「またそれかよ。だいたい、猫は正座できいないっつーの。……俺まで論点がずれてきてしまったよ、畜生」


『ときに』

「む?」

『柊可愛いだろ、柊』

「またそれか! 知らねぇよ、あんなチキンのガキのことなんか」

『どこが好きになったの?』

「だから、違う!」

『どんなときに、ドキドキしてくれたの……かな……?』

「なんか、どんどん乙女になっていく? でも、質問内容、面倒くさい女のそれだからね?」

『もう、ゴールしてもいいよね……?』

「古い上にそれ死亡フラグだから! あといろいろ権利関係とかやばいやつだからね? 自重しような?」

『では明智、また会おう』

「あ~もう、お前ってやつは……」


 神との対話が終わり、再び俺は猫の体のまま、現実へと戻った。

 まったく、こんな神経と魂を擦り切られる『試練』とやらが何回も続くのか。

 それほど多くはないような事を言っていたが、あの神、信用できないし。

 俺の中の信仰は死に絶えた。

 まあ、あの社畜になった時点で、まるっきり信用しなくなったんだけど。

 それにしても神め、適当な事ばかり言いやがって。


 俺の心があの根性無し女になびくとでも?

 まあ、顔は可愛い。それは素直に認めよう。

 残念な胸は発展途上として、スタイルも悪くない。

 ……だが、性格がなあ……これだけ間近で見ていると、どうにも煮え切らない性格で、こちらとしてはどうしてもイライラしてしまう。


 まして相手はJK。俺、アラサー。

 ちゃんと理性の一線は引きましょうね。

 まかり間違えて少女の魅力に溺れて人生棒に振るのだけは勘弁。

 俺の倫理観は鉄よりも硬い! ……はずだから。


 ――ふと。

 俺は、神の言った『柊にドキドキした瞬間』を思い出していた。

 いや、まあ、ドキドキとは違うんだけど。

 さっき、柊が登校するときにこちらを振り返って言った言葉。

 音として感知こそできなかったが、その唇がなぞった言葉は、明明白白だった。

 柊はこういったのだ。


『ありがとう』


 単純な感謝の言葉。

 だがその時、俺は重ねてきた苦労が少しだけ報われた気がした。

 社畜として、使い捨ての道具として、酷使され、ぞんざいに扱われる日々。

 そんな生活の中で、忘れ去っていた、その言葉は、紛れもなくキラキラと輝いていて。

 そんな言葉をかけてくれた柊をほんの少し愛おしく思い、心から――ほんの少しだけど、純粋に応援したいと思った。

 まあ、しかし。

 猫になったことも、すべてがすべて、ダメダメというわけではないのかもしれない。

 俺は努めて自分に言い聞かせる。どんな苦境においても、希望という名の妥協を導き出す社畜精神、尊いです。


 しかしなあ……。

 はあ……。

 俺は肺に溜め込んだため息をつく。

 まあ、とりあえずは、次の試練とやらを待ちましょうかね。

 再び、柊の口から『ありがとう』を聞くことを期待している自分を自覚しながら、俺は柊の部屋のクッションの上で丸くなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ