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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第四楽章 α
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再会2

「こ、今回は、こ、この…よう、な、結果になり、ました…が――」

 残りの力を振り絞る様にして、何とか言葉を紡ぎ出すフェンリル。

「次にあ、会った時にはこうは…いきませんよ」

「あら、私達がこのままあなたを逃がすとお思いで?」

 駆け出そうとするベータ。

 だが、しかし、

「だめだ! ベータ!」

 エンがとっさにベータの腕を引っ張って引き寄せ、そのまま床へと倒れ込む。

 同様に、オレも奴の周囲の変化を感じ取り、床へと伏せる。

「ダーーーーーーン!」

 建物そのものを吹き飛ばすかと思う程の爆発。

 とっさに作り出した氷の壁が無かったら、オレ達は爆発に巻き込まれて、ただでは済まなかっただろう。

 もうもうと立ち込める煙の中、オレは慎重に体を起こす。

 周囲からフェンリルの気配は完全に消えていた。残っているのは黒こげとなりボロボロと崩れ落ちる建物の残骸のみ。

「イタチの最後っぺとかいうやつかしら。全く…」

 ぶつぶつ言いながら立ち上がるベータ。

 同じくエンもその隣に立ち上がる。

「あらら~、これじゃあ体育館はもう使えないなあ」

 床板やら壁板やらがなくなり、鉄骨が露わになった体育館を見渡しながらエンがそう言った。

「そうね。これじゃあいつ崩れてもおかしくないわ。とりあえず、エン君ありがとね。あのまま突っ込んでいたらいくら私でも危なかったわ」

「おいおい、オレには礼は無いのかよ?」

 オレはすかさずそう言うが、ベータは顔をしかめる。

「は? 何言ってるの? 私をかばってくれたのはエン君じゃない。なんであんたにも言わなきゃならないのよ」

「氷の壁で守ってやっただろうが。てめえの目は節穴か?」

 カチンときて、勢いに任せてそう言い返す。

 すると、ベータはエンへと振り向く。

「あ、これカズヤだったんだ。僕が能力を使う前に現れたから、ちょっと驚いてたんだけど」

 と、エン。

 ベータは再びこちらを振り向く。

「氷だったからエン君の能力だと思ったけど、まさかあんただったとはね。ま、ついでに礼を言っておくわ」

「ついでって何だよ? ってか言ってねぇし」

「ま、まあまあ、二人とも、とにかくここを出ようよ。危ないよ?」

 すかさずエンが間に割って入ってくる。

「フェンリルは爆発に紛れて逃げちゃったみたいだし、ここはいつ崩れてもおかしくないんだから、外に出た方が良いよ」

 エンの言う通り、ここからすぐ離れた方が良いというのは正しい。

 だが、このままベータに良い様に言われたままなのはしゃくだ。もう一言言ってやろうと口を開きかけたところで、

「そうね。事は終わったみたいだから、私は元に戻るわ。今後の事はFOLS本部に行ってから話しましょ。私からの命令だって言えば外にいるクシイ達が連れて行ってくれると思うわ。それじゃ、私は…そろ…そろも…」

 と、話しながら床へと腰を下ろしたベータは、突然その場にパタンと倒れ込む。

 一体何のつもりだと見ていたが、彼女の髪の毛が、輝きを失うかの様に金髪から黒髪へと変化していく。

「あー、シータに戻ったのか」

 エンが呟く。

「シータ? そういえばそんな話していたな。確かこいつ、ここに入って来た時はこんな髪の色だったか。ベータのインパクトが強すぎて、今まですっかり忘れていたがな」

「あはは、それは確かに」

 笑いながら同意するエン。と、慌てて口を塞ぎ、

「っと、そういえばベータはシータの時の記憶があるって言ってたから、あまり変な事言ってると後が怖いよ?」

 本気とも冗談ともとれる言い方でそう付け加えた。

「うむ…オレはまだシータって奴が分からないからいまいち理解出来ないが、本当に別人…いや、別人格なのか? ま、髪の色が変わってる時点で普通じゃないのは分かるんだが」

「本当に全く別人だよ。僕も最初は驚いたしね。シータがベータに代わって、普段のシータからは想像出来ない言動に変わったから」

 オレの疑問に答えたエンは、横になっているベータ、もといシータをのぞき込む様にして屈み込む。

「とりあえず、シータには今あった事は黙っとくという事で。シータはベータの事を知らないらしいし。シータは…眠ってるのかな?」

「う…んっ」

 と、エンの言葉に応えるかの様にシータは声を漏らす。

「あっ、気が付いたみたいだよ」

 シータはゆっくりと上体だけを起こす。先程まで普通に動いていたとは思えない鈍重な動きだ。

「う…。わ、私は…?」

 辺りを見回しながらそう口にするシータ。

 驚くべき事に、その声はベータの時とは違う、聞き覚えの無いものであった。

「奴らはもう倒したよ」

 エンがそう言うと、シータはそれまでうつろだった表情をぱっと変え、

「そうだ! 確かARUTOの二人組が…」

 と大きな声を出す。

 オレが話した時には既にベータであったが、どうやら奴ら二人が現れた時はまだシータだったらしい。

「だからもう片付いたんだよ」

 彼女がどの程度覚えているのかは知らないが、ベータからの変わり様に少し苛立ちを覚え、強い口調でそう口にする。

「二人が、倒したんですか?」

 と、恐る恐るといった感じで聞いてくる。

「ははは、まあ、そういう事にしておいてよ」

 そう答えたのはエン。

「全く信じらんねえぜ」

 続けてオレが素直な感想を漏らす。

 本当にこいつは何も知らない様だ。先程までのベータは自信に満ち溢れている言動だったのに対して、今のシータは何とも心許ない、弱々しい雰囲気。

 ベータがエンに自分の事を説明していたのを思い出し、オレはやっとその意味を理解した。

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