隠れた演目4
オレが移動すれば奔流は途切れる。だが、発動し続ける能力は新たな奔流を作り出す。
「!?」
突然背後から現れた氷流に、声を出す暇もなく飲み込まれるガル。
「終わりだ」
そのまま窓ガラスへとフリージング・プリズンの流れは突き刺さり、役目を終えたその流れは今までの動きが嘘だったかの様にその活動を止める。
後に現れたのは、窓を突き抜け、屋外に横向きに生えた様な巨大なつらら。
ん? つららは横に出来る事はないから表現としてはおかしいのか?
とにかく、その氷塊の中には全く動く事のない一つの白い人影がある。
「ま、お前の敗因は、自分の能力を過信し過ぎたって事だな」
聞こえているとは思えないが、オレは話し出す。
「このフリージング・プリズン、強力っちゃあ強力なんだが、能力によってはその絶対零度の中でも死に至らない場合があるらしい。お前が生きているのか死んでいるのか…ここから判断する事は出来ないが――」
そこで新たに能力を発動する。
空中に現れる、輝く六本の槍。
「こいつでとどめを刺して、この技は完成らしい。それじゃあな」
言い終わると同時に、氷塊へと六本の槍が殺到する。輝く光の槍は氷を突き抜け、ガルの急所を確実に串刺しにする。
その後、戦いの終わりを告げるかの様に槍は一瞬眩しく輝くと、音もなく消え去っていく。
残った氷塊には無数のひびが走り、そして一気に粉々に砕け散る。
後には何も残らない。ガルの体は一部さえも形を残していない。
「どうやらとどめを刺さなくても、完全に凍り付いてたみたいだな。ま、大抵はそれで終わるらしいが…奴は例外じゃなかったって事か」
――戦闘プログラム、解除――
と、何も指示していないのに、勝手に例の声が聞こえてくる。
「何だ? 敵がいなくなったら自動で終了するのか?」
その問いかけに答える者は誰もいない。
だが、消えていた傷の痛みが徐々に戻ってきているのは感じる。どうやら戦闘プログラムの終了と共に、恒常的に発動していた能力も解除された模様。
戦闘が終わったなら、後はきちんと手当てをしろって事だろうか。
とりあえずはエン達に合流するとするか。
あいつらの実力は良く知らないが、二対一だ。こっちより早く終わっているかもしれないな。
と、遠くから音が聞こえてくる。
今まではガルとの戦闘に集中していたため聞こえていなかったが、こちらの戦闘が終わった今、このズスフィールドとかいうやつの中で聞こえてくる音といったら一つしかない。
エン達はそこに居るはず。
「しっかし、スティルシー・ステップス位使わせてくれよ」
オレはそう独りごちると、音のする方へと向かって歩き出す。
傷の手当ては、あの女に任せた方が早いだろうからな。
結局、エン達は最初に奴らと出会った所で戦っていた様だった。と言っても、ここを歩き回るのは初めてだったので、着くまではどこに向かっているのか分からなかったのだが。
オレが廊下から体育館を覗き込んだところで、丁度向こうも決着が付いた様だった。
オレはというと、全身の傷の痛みは完全に復活しており、痛みが戻ってくる前に処置しておけばよかったと今更後悔。
何とか壁により掛かりながら立っている始末だ。
「そっちも終わったみたいだな」
エンの背中へと声をかけながら体育館へと足を踏み入れる。
エンが振り返り、
「ちょっと、ボロボロじゃない!」
別の方から声が返ってくる。
駆け寄って来るのはその声の主、あの女だ。
ベータに支えられながらゆっくりと腰を下ろすと、すぐに能力による治療が始まる。
そういえば、左腕にもガルの鉄針の攻撃を受けたので、義手は壊れてしまっていたはずなんだが、何時の間にやら修復されている。
普通の機械と違って、アルドさえあれば元通りになるのだとしたら、いよいよオレの肉体の一部と言って問題無い物になっているんだな。
残った傷の痛みが消えていくのを実感しながら、オレは改めて二人を見る。
エンは全身に力無くぐったりしている感じだが、これといって大きな傷は見当たらない。
ベータの方は全く消耗していない様子だ。さっき本人が言っていた通り、戦闘はほとんどエンに任せて、サポートに徹していたという事か。
「二人がかりだった割には、満身創痍って感じだな、エン。こっちは一人で楽勝だったぜ?」
と、すぐに耳元へと怒鳴り声が返ってくる。
「あんたの方が傷だらけでしょうが!」
ベータはともかく、エンが満身創痍ってのは間違いないと思うが。
オレだって戦闘プログラムが発動してりゃあまだ戦えたんだ。発動してればな。
「口先だけは鈍ってない様だけどね」
と、すぐ目の前まで来たエンが笑いながらそう口にする。
「エーン! お前まで言うか!」
戦闘の緊張をほぐすかの様な馬鹿げたやりとり。
「とりあえず、三人とも無事で何よりって事で」
と、オレの治療は終了した様で、ベータは顔を上げる。
その表情は、オレ達二人とは異なったものだった。
「待って」
発せられたその声は、一気に場の雰囲気を引き締める鋭いもの。
ベータの視線はエンへ、否、その後ろの窓へと向けられていた。




