隠れた演目2
「これが、シークレットプログラムの力…」
体中にアルドの流れを感じる。今まで感じた事の無い感覚のはずなのだが、それが何なのかオレには分かった。
ガルは体に付いた霜を払い落としながら、戦闘態勢の構えをとる。さっきまでの余裕のある表情は消え、鋭い目つきでこちらを睨み付けている。
さて、いつまでもこうして張り付けになっているいわれは無い。新たに手に入れた能力で、さっさと抜け出すとするか。
――スティルシー・ステップス、発動――
頭の中に響く機械音声。
次の瞬間、オレはガルの背後へと立っていた。
「なるほど、この能力は確かに便利だな」
その声でガルは背後のオレの存在を察知、振り返ると間合いを取って身構える。その表情には、少なからず驚きの成分が含まれている。
オレの方はというと、スティルシー・ステップスという瞬間移動能力が使えるという事よりも、自らの身体の変化に驚いていた。
ガルによって串刺しにされた四肢の傷の痛みが全く感じられない。体内のアルドが活性化されたために、自己治癒力が上がったのか。
けれども、あれだけの傷だ。あの女のような治療能力を手に入れた訳ではないので、傷が完治しているのではない。
いったいどういう事だと思い、足の傷へと触れてみて何が起きているのかを理解した。
傷の周りが凍っていたのだ。凍らせる事で出血を止め、神経を麻痺させる事で痛みを感じなくさせているのだ。にもかかわらず、傷以外の場所には何も影響はなく、普段通りに動かせる。
あくまで応急手当的なものだが、そんな能力が自動的に発動されていたのだ。
「さて、それじゃあ第二ラウンドといきますか」
体の動きを確認したオレはガルへと向かってそう宣言し、構える。
――戦闘プログラム発動、パターンε、始動――
何が出来るのか――それは分かっている。
左腕のアームに冷気がまとわりつく様にして現れ、先程までガルが投擲していた針の様な鋭い氷が形作られる。
「針には針を、ってね」
左腕を振り下ろすと氷の針がガルへと殺到する。
ガルは氷針が届く前に床上を回転し逃れたため、氷針は床を穿つのみ。
ガルはそのまま移動しながら、掌で遊ばせていた残りの鉄針をまとめて投擲する。
しかし、それらの針は床から生える様にして現れた氷の壁によってその行く手を阻まれる。
能力の扱い方については、プロテクトを解いた時に理解出来ていた。
どうやらこのプログラムεは、氷を自由自在に操れる能力をオレに与えてくれた様だ。
鉄針での攻撃が届かなかった事を見届けたガルは、低い体勢で部屋を駆け抜け間合いを詰めてくる。
「調子に乗るなよ!」
オレはその場から動かずに立っていたため、ガルはすぐに眼前へと至る。
繰り出されるのは、かぎ爪の様にして三本揃えて握られた鉄針の斬撃。
それを受け止めたのは、左腕に現れた氷の剣。
冷気に包まれた剣とぶつかったかぎ爪は、みるみる内に霜に覆われ凍り付いていく。
氷が掌へと至る前に、ガルはあっさりと鉄針を放棄し後ろへ飛び退く。だが、次の瞬間には何もなかったかのように新たな鉄針が両手に握られている。
「はあああっ!」
かけ声と共に、今度はこっちから打って出る。
打ち下ろした氷の剣は両手のかぎ爪に受け止められる。ガルも剣の特性を理解した様で、今回はすぐに剣を打ち返して離れる事で凍り付くのを防ぐ。
オレは続けて氷剣を振るう。
横薙ぎの一撃は上体を後ろに逸らしたガルの上を通り抜ける。
そのまま連続で剣を振るうが、それらも悉くかわされ、続く刃は左のかぎ爪一つで受け止められる。
ガルはその勢いを殺さずに逆に利用し、オレの左側へと回り込むとかぎ爪を振るう。
脇腹に痛みが走るが、灼熱の感覚は一瞬。すぐに冷気が傷を取り囲む。
二撃目のかぎ爪は氷剣が受け止め、すぐに白く凍り付く。
今度も左のかぎ爪はそのまま手放されるかと思ったが、予想に反してガルは剣を受け止めたまま動かない。
ガルがこちらへと顔を向け、にやりと口元を吊り上げる。
「食らいな」
声と同時に氷剣と接している三本の鉄針が赤く輝く。
「くうっ!」
オレはとっさに体の正面に氷の盾を形成するが、あまりにも近すぎた。
鉄針は爆散し、オレはその衝撃に後方へと吹き飛ばされる。
形成が不十分だったため盾は砕かれ、針の破片が降り注ぐ。もちろん左腕の剣も粉々だ。
全身に傷を受けたが、例の応急措置のお陰で大した出血もなく、すぐに立ち上がりガルへと向き直る。
「ほーう、あの距離で受けてまだ立ち上がれるとは…先程までとはアルドの扱い方が別物だな」
「そりゃどーも」
密着した状態からの爆発だったはずなのだが、ガルの方は全くの無傷。服が燃えた様子も無い。
おそらく、奴は爆発の方向をコントロールして、特定の方向にだけ爆発を向ける事が出来るのだろう。でなければ、あの距離からの攻撃はただの自滅行為だ。




