隠れた演目1
――シークレットプログラムε、起動パスワード、未確認――
頭の中に機械的な声が響く。先程まで話していたアームとは違う、聞き慣れたあの声だ。
しかし、奴の言っていた通り本当にシークレットプログラムとやらは存在する様で、起動するにはパスワードが必要なのも話に聞いた通り。
どうやら、あの奇妙な空間での会話は幻ではなかったらしい。
――パスワードは、お前がこの世界に来て、最初に会った者の――
結局、中途半端なところで話を切りやがって。時間が少ないと言っていたが、あの空間にいられる時間が途中で切れたという事なのか?
問いかけるが、もうその問いに応える声は無い。
とにかく、その最後の言葉から考えるしかない。最初に会った者の……何だ?
この世界で最初に会ったのはエンに違いない。何しろ、この世界に来て会ったのはエンと、あのムカつく女と、目の前にいるガルとその連れの四人だけだ。
すると、それでエンの…エンの何だ?
パスワードとしてアームに登録されているのだから、何か一般的な事か……。
身長? 体重? 否、どっちも知らないぞ。
アームはオレが既に知っていると言っていた。ならば、答えはエンとの会話の中にあるはず。
例えば…地名はどうだ? エイジアシティー、オキスズミチョウ……単語を思い浮かべても何の反応も無い。
今までのアームの扱いから考えて、特に声に出して言う必要はないはず。パスワードが合っていれば、思い浮かべるだけで反応するはずなのだ。
何も反応が無いという事はハズレだという事だ。
東ココノエ高校…やはり、地名では無いのか?
後は何がある? エンから聞いた事…そうだ、あの能力はどうだ? あの突然現れたり消えたりする能力。確か名前は――
「スティルシー・ステップス」
オレは特に意識する事なくそう声に出していた。
そして――
「さっきから何をぶつぶつ言ってるんだ? もう頭がいかれちまったのか?」
そうガルの言葉が返ってきただけである。
これもハズレという事か。
くそっ、一体何なんだよ! エンの年齢か?
確か十六……反応無し。
「はっ本当にいかれちまった様だな。それじゃあこれ以上いたぶってても面白くないな」
と、ガルを無視し続けていたら勝手にいかれた事にされてしまった。
「ああ、うるさい奴だな。お前を倒す方法を考えるのに忙しいんだよ」
そのまま無視し続けていても良かったのだが、舐められるのはしゃくだ。
「はっ、そりゃ悪かったな。てめえの足りない頭で、出ない答えを一生懸命考えているのを邪魔した様だ」
相変わらず見下した笑みをはりつけた嫌らしい表情だ。
パスワードさえ分かれば、その勝ち誇った表情を一変させてやれるはずだが……。
肝心のパスワードがさっぱり分からねえ。一体何なんだよ。エンの言った事、エンの能力、エンの――
ん? もしかして、そんな難しく考えなくても良いのか?
否、でも、そんなものがアームにパスワードとして登録されているのか…?
思い浮かんだのは、エンのフルネーム。そんな事はないと思いつつも、一応思い出す。
確か……エン=スガムラ。
――パスワード認証、シークレットプログラムε、プロテクト解除――
頭の中に声が響き、オレは呆気にとられる。
まさかそれは無いと思ったのがパスワードだったとは。
何故、個人名がパスワードになっていたのかは不明だが、今はそんな事を考えている余裕はない。
カギは解除された。さあ、シークレットプログラムとやらの効果を見せてもらおうか。
――シークレットプログラムε、起動――
左腕から全身に向かって何かが駆け抜ける。
全身が燃える様に熱い。そう思ったのは一瞬で、次の瞬間、一転して凍り付くような冷気が体を包み込む。
否、体だけではない。部屋中が冷気に包まれていた。
「な、貴様――何をした!?」
一瞬にして白銀の世界へと一変した部屋の中央で、全身に霜をまとわり付かせたガルが驚嘆の声を上げた。




