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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第四楽章 α
89/113

眠れる力5


――いつまでもこの空間に留まる事は出来ないのだ。時間はそう多くない――


 なら先に言えよ、と思ったが、オレの突っ込みなど気にせず声は続く。


――アームには幾つものカギ、安全装置がかけられている。よって、今のアームは本来の力の十分の一も発揮出来ていない――


「十分の一? じゃあ今の十倍は強くなれるって事か!」


――強くなるというのとは異なる。能力の強弱があるとしたら、それを決めるのは使用者のアルドだ。この場合は、それだけアームの使い道が増えるという事だな。だが、そのためにはそのいくつものカギを解除しなければならない――


「どうするんだ?」


――アームに隠されているシークレットプログラム、それを起動させ、解除するためのパスワードを入力すれば良い――


 パスワードどころか、シークレットプログラムとやらすら知らないのだが。


――お前は既に一つのパスワードを手に入れている。それに対応するのは、シークレットプログラムεだ――


「パスワードなんて手に入れた覚えはないんだがな?」

 オレの問いに返ってきたのは、ふっと鼻で笑う様な声。

 何がおかしいのか。


――パスワードは自分で考えろ。私が教える事が出来るのはここまでだ――


 何だそれは。そこまで言ったら、パスワードを教えても別に構わないではないか。


――パスワードを全て『自分で』手に入れるのがアームを持つ者の使命だ。自分で手に入れてこそ意味がある。だが…ヒントだけは与えよう。最初のパスワードが分からなければ、他のパスワードを探す事も出来んからな――


 やけに「自分で」という言葉に力が入っていた。

 にしても……使命だって? 何だそれは。いつの間にそんなものがオレに――


――良く聞け――


 オレの思考には反応せずに声は続く。


――パスワードは、お前がこの世界に来て、最初に会った者の――


 と、話の途中で声がどんどん遠ざかっていき、同時に目の前の男の姿も薄れていく。

 目の前の暗闇が段々と晴れていき、そして――


「うぐうっ」

 四肢に突然戻ってきた激痛に、オレは思わず呻き声を漏らした。

「おっ? 呻き声を上げる元気すら残っていないのかと思ったが、どうやらまだ元気があったみたいだな」

 目の前には見覚えのある人影。ガルは先程までと寸分違わぬ位置でこっちを見ている。

 どうやらオレはあの真っ暗な空間から現実世界へと戻ってきたようだ。否、それともオレはただ気絶していただけなのか?

「さて、次はどこを串刺しにしてやろうか?」

 と、ガルの手に再び鉄針が現れる。

 そこで改めて現状を確認する。

 オレの体を張り付けにしている針は、両腕両足の四本のまま。もしオレが気絶していたのだとしたら、奴の言動からして、オレの体は針でもっと穴だらけになっていてもおかしくはない。

 それが一本も増えていないことから、時間は全く進んでいないと考えて良いだろう。

 となると、さっきのアームとの会話は何か特殊な空間であった事なのだろうか。

 …いずれにせよ、四肢の自由を奪われたオレに出来る事は限られている。

 今はただ、アームに言われた言葉を信じ、そのカギを解除するしかない。そうする事以外に、この状態から抜け出せる手段をオレは持ち合わせていない。

 だが問題は、

「パスワードが何なのか、だ」

「ん? 何か言ったか?」

 呟いたオレの言葉がわずかに耳に入ったのか、手の平で鉄針を遊ばせながらガルが聞き返してくる。

「喋れる内に言いたい事があるなら言わせてやるぞ? オレ様は優しいからな」

「シークレットプログラムε、起動」

 ガルを無視して、オレはそう呟いた。


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