眠れる力4
無言を肯定と受け取ったのか、再び声が響く。
――本来、アルドというものは全ての者が持っているのだ。お前が生きてきた世界の者も全てだ。ただ、その扱い方を知らなかっただけで…その辺はあのガルデルムも誤解していた様だったが――
再び奴の名が出て、流石に気になり口に出す。
「やけに奴の事にこだわるな?」
――こだわっているのはお前の方だろう?――
返ってきたのは笑いの成分を含んだ声。
カチンときて言い返そうとするのを、絶妙なタイミングで声が制する。
――心を見透かされたからといって、そう感情的になるな。まあ、年寄りの戯言だと思って聞き流しておけ――
「年寄り? アームにも歳なんてあるんだな」
何とかそう皮肉を返すが、
――少なくとも、お前よりずっと長くの時を過ごしてきたのだけは確かだな――
あっさりと返される。こいつには全て見透かされている様な感じがして、何だか気に入らない。
――私はもう既にお前の体の一部だからな。考えている事は全て分かる――
言葉にしてもいないのに返事が返ってくる。
見透かされているどころか全て筒抜けか? 前言撤回だ。気に入らない、ではなくて、明らかにヤナヤローだ。
――ふっ、話を戻すが…アームはお前がアルドを扱える様になるきっかけに過ぎなかった。そして、徐々にだがアルドの扱いは上達してきている。だが――
アームはそこで言葉を区切る。オレが続きを答えるのを待っているかの様だ。
そう考えると、アームはにやりと笑う。
「アームの扱いは上達していないって事か?」
口に出さなくても良いのだが、敢えて口にする。自分自身で再確認するという意味を込めてだ。
――話の流れ的に、そうなるしかないか――
笑いながらの返答。
まあ確かにそう答えるしかなかった訳だが、アームの扱いと言われても、オレはアームについては何も知らないに等しい。今使えている能力だって、偶然使える様になったに過ぎない。
今こんな風にアームと会話しているのは初めての事だし、話せるとは思ってもいなかった。…本当に何も知らないんだ。
この世界に来たのだってアームの力に関係しているし、アイも……オレがアームの事をもっと知っていれば、あんな事にはならなかったはず……。
――起こってしまった事を悔いていても何も始まらない。問題なのは今何を出来るか、これからどうすれば良いのか――
「分かっているさ! 分かってはいるが――」
――どうしたら良いか分からない、と――
オレの叫びを遮ってアームが続ける。
――お前が今すべき事は、アームを知る事だ。アームの扱いを学ぶ事だ。事を起こしたのがアームであるならば、それを解決するのもまたアームの他あるまい――
「アームがあれば、アイとまた再会出来るという事か?」
――ああ、必ずな――
きっぱりと断定するアーム。
こいつは、アイが何処に居るのか知っているのか?
――分かっていても、お前がアームを使いこなせなければそこに行く事は出来ないがな――
思考を読んですぐに返してくるが、知っているのかいないのか、曖昧な答えだ。
――とにかく、今はこの状況から抜け出せなければ意味はあるまい? お前は今、殺されそうになっているのだからな――
そうだ、オレはガルに壁に張り付けにされ、今にもとどめを刺されそうな状態だったはず。
目の前に広がるこの異様な風景のせいで忘れかけてはいたが、オレは奴と戦っている最中だったんだ。
――さて、そろそろ本題に入っても良いかな?――
「本題?」
すぐには意味が分からずに聞き返してしまう。さっきまでの話の流れを考えれば分かるはずだったのだが。
――アームの扱いについてだ。カズヤ、一度しか言わない。良く聴け――
さっきまでと比べると、厳しく諭す様な口調へと変わる声。




