眠れる力3
オレは壁に寄り掛かかって座っているかの様な体勢。足に力は……入る。
再びゆっくりと立ち上がり、ガルへと視線を向ける。
「良いねえ。まだ立ち上がってくれるとは。それでこそいたぶり甲斐があるってもんだぜ」
奴の手に、何か針の様なものが握られる。
そして、指が一瞬動いたかと思うと右肩に灼熱の感覚。もはや苦鳴すら漏れない。
目を向けると、長さ三十センチ程の鉄針がオレの肩を貫通して壁へと突き刺さっていた。
「とりあえず、さっきのお返しだ。オレ様は気前が良いからな、釣りはいらねえぜ」
わざわざ何処をやられたか覚えているとは、几帳面な野郎だ。
「さて、次は何処にくれてやろうか?」
再び銀の線が舞い、今度は左腕からの激痛。
左腕は義手ではあるが、その感覚は身体と一体化しているため、同じ様に痛みが伝わってくるのだ。
「そういやあ、立ってるのも辛そうだな。手伝ってやるよ」
続けざまに二筋の銀光。
左右の太股を正確に針が突き破り、壁へと突き刺さる。既に、痛みが何処のものなのか判別が付かなくなってきている。
どうすれば…どうすればいいんだ。体は動かない。このままでは奴の言う通り、いたぶられ続けるだけだ。
何とかしなければ、何とか……アルドとやらをコントロールすれば、この状況から抜け出すことが出来るのか? だが、一体どうやって?
…アーム……教えてくれ……オレは、どう、す…れ、ば――
不意に視界が暗闇に包まれ、ガルの気配も何も感じられない。
ついに意識を失ったか、と思ったが、ならば今のこの思考はいったい何なのか。
すると、どこからともなく声が響いてくる。
――やっと私に聞く気になったか――
その声は、どこか楽しそうに聞こえた。
「誰だ!」
オレは辺りへと顔を巡らせながらそう叫ぶ。と、そこで気が付く。体が自由に動くという事に。
ガルに張り付けにされたはずの針も消えていて、オレはただ暗闇の中に立っているだけ。
――誰だ、とは心外だな。呼んだのは君の方だろう?――
言葉が返ってくる。心外だとは言ったものの、そのような感情が言葉に込められていないのはすぐに分かる柔らかい声。
「どういう事だ? 姿を現せ!」
――ずっと目の前に居るのだがな――
すると、目の前の闇にぼんやりと人影が浮かび上がってくる。
輪郭のはっきりしないその人影は、見た事もない装束を身にまとっている金髪の男…に見えた。顔も服装もはっきりとは見えないのだ。
「お前は、誰だ?」
その人影へと向けて、改めて問いかける。
返ってきたのは言葉ではなく行動。影は自らの左腕を前に出し、右手でとんとん、とその左腕を指し示す様なジェスチャーをする。
「左腕…?」
自分の腕へと視線を移す。そこにあるのは――
「アーム」
――そうだ――
今度の答えは声であった。
目の前の男が喋っている様に見えた。だが、その声はどこか遠くから聞こえてくる様な響きを持っていた。
「アーム? この目の前の人の姿がアームだというのか?」
――正確には違うが…私がお前の左腕にあるアーム自身だ――
「人ではないが、アームには意志がある。そういう事か?」
しばしの間。
答えを考えているかの様に感じたが、
――まあ、そういう事だな――
声は肯定してきた。
「ならば教えてくれ。アームとは何なんだ? どうすればアルドとかいうやつを上手に扱えるんだ!?」
――アルドの扱いは、お前が自分自身で覚えていくものだ。私が教えられるのはアームの扱い方。ただそれだけ――
「アームがどれだけ優れていても、オレのアルドの使い方が下手では意味が無いんじゃないのか?」
ガルに言われた事。それをそのまま口にする。
――お前は大きな思い違いをしている。アームは能力の発動装置ではない。能力を発動しているのはお前自身だ――
「だが、アームを手にするまで、あんな事は出来なかった」
――ガルデルムは違っただろう?――
「あいつは特別な――」
――この世界で出会った者達は?――
オレが言い終える前に、声が畳み掛けてくる。
――世界が違えば特別な能力が使えるとでも? お前はもう知っているはずだ。エンという少年も、お前と何も変わらない同じ人間だという事を――
返す言葉が見つからない。声は的確にオレの心の中を言い当てていた。




