眠れる力2
同じのはどうやら名前だけ。こんな奴に、オレは負ける訳にはいかない。
――攻撃プログラム発動、パターン3始動――
真っ正面から攻撃してきたガルに向けて剣を振り抜く。
ガルはすぐに方向転換、剣の軌道から逃れると、その掌から真紅に揺らめく炎の球が現れる。
――防御プログラム変更、パターン1始動――
炎の球は光のカーテンの外で消え去り、オレ自身には何も届かない。と、その時、左側からの接近物を感じとる。
とっさに腕でガードするが衝撃を受けきれず、そのまま右手後方へと吹き飛ばされる。
そして、壁際に置かれた棚へ激突し、やっと勢いが止まる。
すぐに追い打ちが来るかと身構えるが、ガルの姿は視界に見つからない。一体どこに――と、突然床が割れ、手が飛び出してくる。
反応できなかったオレはそのまま足首を捕まれ、バランスを崩したまま床下へと引っ張られる。
そのまま振り落とされるようにして一階下の床へと叩きつけられ、全身の骨がきしむ。
痛みに歪む視界の中で、ガルがオレを見下ろし、口を開く。
「終わり、かな?」
楽しそうな笑みを浮かべ、そう口にしたガルの右手がこちらに向けられる。
真紅の炎の球が先程のものの倍以上の大きさへと膨れ上がり、そして、
――防御プログラム、再発動――
頭の中に声が響くのとほぼ同時、全身に灼熱の業火がまとわりつき、熱さと痛みが一緒くたになって襲いかかってくる。
「ぐああああっ!」
口から苦痛の叫びが勝手に漏れ出し、部屋中に響きわたる。
「ハァ、ハァ、ハァ」
十数秒間の炎の牢獄をオレはどうやら耐え抜いた様だ。
目を開けると、目の前には所々で炎が揺らめき、辺りは黒煙に包まれていた。
「ほーう、思ったより焼けていないな。とっさに能力でガードでもしたか?」
声が頭上から降ってくる。
見上げると、頭上に開いた穴の中、元々オレ達がいた部屋からガルが見下ろしているのが目に入る。
――これ位で、やられてたまるか――
言い返そうと口を動かすが、声が出てこない。
そのオレの口の動きを見ていたのか見ていないのか、ガルはオレの目の前に音もなく降りてくる。
「ふん。確かにてめえの能力は優れたものかもしれねえが、アルドの扱いがお子様以下だな」
「っが…」
ガルが脇腹を蹴り飛ばし、オレは苦痛に顔を歪める。
「今の状態にしてもそうだ。全身のアルドを自由にコントロール出来るんなら、ある程度は傷を自己修復する事が出来る。だがお前には全くそれが出来ちゃいねえ」
そんなこと知るか。アルドのコントロールなんて言われても、オレには何の事だかさっぱり分からないんだからな。
心の中で悪態をつくが、だからといって体が動くようになる訳でもない。
ガルはもう既に勝利を確信している様で、無駄に口を良く動かす。
「そして、てめえには決定的な弱点がある。能力を一度に一つしか使用する事が出来ないっつうことだ。何か新しく能力を発動する場合、使っている能力を解除しなければならないっつうな。一つ一つの能力に優れていても、それじゃあ隙だらけだな」
相手の能力の分析結果を偉そうに語って、勝利に浸っているつもりなのか?
気にくわない野郎だ。こんな所は、奴にそっくりだ。
だが、ガルの言っている事は確かに当たっている。アームの力では、一つ一つ能力を切り替えなければならない。
攻撃と防御、それぞれを切り替えなければいけないし、その間に微妙な隙が出来るのも知っていた。
それをこいつはあれだけの間に気が付くとは…否、気が付くのが当然なのか? アルドとやらを自由に扱える者にとっては。
奴が無駄なおしゃべりをしている間に、少しでも体が動くようになるかと期待していたが、どうやらその望みも薄い。
くそ、こんな所で終わってしまうのか? 否、負ける訳にはいかない。アイを見つけるまで、死ぬ訳にはいかないんだ!
オレはわずかに残っている両足の感覚へと意識を総動員して、ふらつきながらもなんとか立ち上がる。
目の前にはガルが立っていたが、奴は特にオレの動きには反応せず、ふらふらと立つオレへ見下したような視線を向け続けていた。
「立ち上がったところで何が出来るんだぁ? そんな状態で?」
「う、るせえ」
今度は声が出た。だがそれは、蚊が鳴く様な小さな声だった。
「はん。大人しく寝ていれば良いものを。一思いに殺してやろうと思っていたが…良いだろう。死ぬまでいたぶってやるぜ」
言い終わると同時に奴の拳が腹へと吸い込まれ、オレは後方の壁へと叩きつけられる。
全身に衝撃が駆け抜け、一瞬意識が遠退いた様な気がするが、すぐに意識を集中させる。




