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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第四楽章 α
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眠れる力2

 同じのはどうやら名前だけ。こんな奴に、オレは負ける訳にはいかない。


――攻撃プログラム発動、パターン3始動――


 真っ正面から攻撃してきたガルに向けて剣を振り抜く。

 ガルはすぐに方向転換、剣の軌道から逃れると、その掌から真紅に揺らめく炎の球が現れる。


――防御プログラム変更、パターン1始動――


 炎の球は光のカーテンの外で消え去り、オレ自身には何も届かない。と、その時、左側からの接近物を感じとる。

 とっさに腕でガードするが衝撃を受けきれず、そのまま右手後方へと吹き飛ばされる。

 そして、壁際に置かれた棚へ激突し、やっと勢いが止まる。

 すぐに追い打ちが来るかと身構えるが、ガルの姿は視界に見つからない。一体どこに――と、突然床が割れ、手が飛び出してくる。

 反応できなかったオレはそのまま足首を捕まれ、バランスを崩したまま床下へと引っ張られる。

 そのまま振り落とされるようにして一階下の床へと叩きつけられ、全身の骨がきしむ。

 痛みに歪む視界の中で、ガルがオレを見下ろし、口を開く。

「終わり、かな?」

 楽しそうな笑みを浮かべ、そう口にしたガルの右手がこちらに向けられる。

 真紅の炎の球が先程のものの倍以上の大きさへと膨れ上がり、そして、


――防御プログラム、再発動――


 頭の中に声が響くのとほぼ同時、全身に灼熱の業火がまとわりつき、熱さと痛みが一緒くたになって襲いかかってくる。

「ぐああああっ!」

 口から苦痛の叫びが勝手に漏れ出し、部屋中に響きわたる。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 十数秒間の炎の牢獄をオレはどうやら耐え抜いた様だ。

 目を開けると、目の前には所々で炎が揺らめき、辺りは黒煙に包まれていた。

「ほーう、思ったより焼けていないな。とっさに能力でガードでもしたか?」

 声が頭上から降ってくる。

 見上げると、頭上に開いた穴の中、元々オレ達がいた部屋からガルが見下ろしているのが目に入る。

――これ位で、やられてたまるか――

 言い返そうと口を動かすが、声が出てこない。

 そのオレの口の動きを見ていたのか見ていないのか、ガルはオレの目の前に音もなく降りてくる。

「ふん。確かにてめえの能力は優れたものかもしれねえが、アルドの扱いがお子様以下だな」

「っが…」

 ガルが脇腹を蹴り飛ばし、オレは苦痛に顔を歪める。

「今の状態にしてもそうだ。全身のアルドを自由にコントロール出来るんなら、ある程度は傷を自己修復する事が出来る。だがお前には全くそれが出来ちゃいねえ」

 そんなこと知るか。アルドのコントロールなんて言われても、オレには何の事だかさっぱり分からないんだからな。

 心の中で悪態をつくが、だからといって体が動くようになる訳でもない。

 ガルはもう既に勝利を確信している様で、無駄に口を良く動かす。

「そして、てめえには決定的な弱点がある。能力を一度に一つしか使用する事が出来ないっつうことだ。何か新しく能力を発動する場合、使っている能力を解除しなければならないっつうな。一つ一つの能力に優れていても、それじゃあ隙だらけだな」

 相手の能力の分析結果を偉そうに語って、勝利に浸っているつもりなのか?

 気にくわない野郎だ。こんな所は、奴にそっくりだ。

 だが、ガルの言っている事は確かに当たっている。アームの力では、一つ一つ能力を切り替えなければならない。

 攻撃と防御、それぞれを切り替えなければいけないし、その間に微妙な隙が出来るのも知っていた。

 それをこいつはあれだけの間に気が付くとは…否、気が付くのが当然なのか? アルドとやらを自由に扱える者にとっては。

 奴が無駄なおしゃべりをしている間に、少しでも体が動くようになるかと期待していたが、どうやらその望みも薄い。

 くそ、こんな所で終わってしまうのか? 否、負ける訳にはいかない。アイを見つけるまで、死ぬ訳にはいかないんだ!

 オレはわずかに残っている両足の感覚へと意識を総動員して、ふらつきながらもなんとか立ち上がる。

 目の前にはガルが立っていたが、奴は特にオレの動きには反応せず、ふらふらと立つオレへ見下したような視線を向け続けていた。

「立ち上がったところで何が出来るんだぁ? そんな状態で?」

「う、るせえ」

 今度は声が出た。だがそれは、蚊が鳴く様な小さな声だった。

「はん。大人しく寝ていれば良いものを。一思いに殺してやろうと思っていたが…良いだろう。死ぬまでいたぶってやるぜ」

 言い終わると同時に奴の拳が腹へと吸い込まれ、オレは後方の壁へと叩きつけられる。

 全身に衝撃が駆け抜け、一瞬意識が遠退いた様な気がするが、すぐに意識を集中させる。

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