眠れる力1
三日目
「ふん、お前等こそやられる覚悟は出来ているんだろうな? さっきの様には行かないぜ」
オレは目の前にいる二人組に向けてそう言い放った。
その言葉に、黒髪の男が反応する。
「一撃で動けなくなった奴が良く言うな」
嘲る様なそのセリフを聞き終わる前に、オレは行動に移っていた。
先程までの体に重さは感じず、思う様に身体が動く。
「試してみるか!?」
叫び声と同時に黒髪の男へと左のストレートを繰り出す。
男は軽々とそれを避けると、一旦後ろに下がって間合いを取る。そして、顔をしかめる。
「ん? フェンリルと他の二人がいないな?」
「お前の相手はオレ一人で十分って事だ」
オレは男の言葉にそう答える。
作戦通り、二人を引き離すのにはどうやら成功したらしい。
「はっ! 身の程知らずが! すぐに命乞いさせてやるさ」
相変わらず気に障る野郎だ。だが、やる前に確認しておきたい事がある。
「ところでお前、ガルデルムってもう一人の奴に呼ばれてなかったか?」
「それがどうした? オレ様が何だろうと虫けらには関係ねえだろうが」
否定しないということは、こいつの名がガルデルムだという事なのだろう。
しかし、こいつはオレの知っているガルデルムとは全くの別人だ。黒髪で長身だという共通点はあるが、それ以外に似ている所は全く無い。
ガルデルムというのは、この手の怪しい奴らには人気の名前だとでもいうのか?
どちらにしろ――
「まあ、そうだな。関係ないな」
とりあえず、紛らわしいのでこいつの事はガルとでも呼んでおくか。
「それで、死ぬ前に言っときたい事は全てか?」
「お前の減らず口こそ、何時までもつかな!」
――攻撃プログラム発動、パターン1始動――
頭の中に久しぶりのあの声が響く。
オレはガルに向けて左腕を突き出す様に構えると、光弾を三発続けて撃ち込む。
ガルはそれを避けようとはせず、弾と自身との間に近くある物を放り投げる。
そのまま光弾は机や椅子に命中、大きな爆砕音と共にそれらの破片が部屋の中に飛び散る。
降り注ぐ破片を振り払いながら、オレは爆心地の向こう側へと突っ込む。
――パターン3変更、始動――
左腕に握られた剣を力任せに振り下ろす。しかし、手ごたえは無く、剣は床へと鋭い傷跡を刻みこんだだけだ。
左から迫る気配を感じ、後方へと飛び退く。
目の前を走り抜けていく机、それは前方にあった椅子や机を巻き込んで壁に衝突、破散する。
――防御プログラム変更、パターン1始動――
後方から続けざまに飛んできたいくつもの光弾が、音も無くオレの直前で消えていく。
その飛んできた方向から相手の場所を予想して、オレは右後方へと飛び込む。
――攻撃プログラム変更、パタ――
頭の中に響く声を全て聞き終える前に、目の前へと迫った白衣の男へ光の剣を振り下ろす。
「ぐっ」
今度は確かな手ごたえを感じ、男の右肩から赤い飛沫が弾け飛ぶ。
返す刃を男の右脇腹へと横に一閃。
切っ先はコートを切り裂いただけで、後方へと飛び退いたガルの体へとは至らなかった。
――防御プログラム変更、パターン2登録、始動――
部屋の天井まで届くかという程の巨大な光の盾が前方に現れる。
先程の光のヴェールよりも力強そうな分厚いその盾は、ガルの繰り出した渾身の回し蹴りを完全に受け止めていた。
ガルは一瞬顔を歪めた様に見えたが、すぐさま軸足だった左足で床を蹴って宙を舞い、間合いを取って構える。
――防御プログラム解除――
目の前の光の盾が消え去ると遮るものがなくなり、オレとガルの視線が交差する。
「まだ一発も攻撃を受けていないんだが…やはり口だけだったという事か?」
奴を挑発する様にオレは口を開く。
「ふざけんじゃねえ、今のはただの様子見だ。これからが本番だぜ!」
「口だけはよく動くな」
今までの動きを見ただけで分かる。奴の能力はあのガルデルムには遠く及ばない。力も技も速さも、ガルデルムの方が一枚も二枚も上なのは確かだ。




