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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第三楽章 ε
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凍る世界4

 先程あった痛みはほとんど残っていない。

 奴とのおしゃべりの間に、ベータが先程カズヤを回復させた能力で僕の傷も治療していたのだ。

 もちろん、フェンリルが気付いていないはずはない。わざと見逃しているのだろう。つまり、それだけ余裕だという事か。

 けれども、僕はARUTOに負けたりはしない。絶対に勝つ!

「んじゃ、そろそろ終わりにするよ!」

 そう言うのと同時に床を蹴って飛び出す。

 鼻で笑うフェンリルの顔が目に入るが、今までの行動はただ闇雲に突っ込んでいただけではない。

 相手の能力を掴む事、そして何より、自分ですらはっきりと把握出来ていなかった自身の能力を掴むために、無駄に力任せに突っ込んでいたに過ぎないのだ。

 同じ様にフェンリルが視界から消え、そして、

「何!?」

 先程とは違い、僕の背後へと回り込んだフェンリルだったが、その場所へと無数の刃が襲いかかる。

 とっさに電撃で迎撃するが、全ての刃から逃げ切れず、その服や肌に傷が刻まれる。

 前方へと巨大な氷の刃を放つ様に見せかけ、フェンリルが移動する先を読む。というよりも、わざと後方に隙を作り、そちらに無数の刃を放ったのだ。

 奴の移動後に氷を放っても電撃よりも早く氷が届く事は出来ないので、先手を取るためには、先に氷を放っておいてそこに相手を誘導させるしかない。

 すぐさまフェンリルは体勢を立て直すべく後方へと飛ぶと、そこから一筋の雷光を放つ。

 予期していた攻撃は、僕の右を走り抜ける。

「行動が読めるんじゃなかったのか?」

 そう言って床を疾走しつつ、右手に氷の剣を形成させる。

 床に裂け目を作りつつ斬り上げた青白い刃を、フェンリルは後方へと回転してかわし、そのまま床へと着地。その場から続けざまに三条の雷光が空中の僕へと向かって駆け上る。

 しかし、その光が僕に届く事はなく、巨大な氷の壁と共に空中で爆散する。

 降りかかる氷のつぶてを防ぐため、もう一枚の壁を形成。同時にその壁を蹴って空中で上下回転、頭の下を閃光が走り抜けて行く。

 もう一度氷の壁を蹴って方向転換し、今の雷撃の出所を瞬時に判断、鋭い氷柱が床から一瞬で突き上がる。

 フェンリルの移動を予測、続けざまに七本の氷柱が現れたところで僕の足が床へと到着。

 足下の氷板が雷撃を受け弾け飛ぶが、それより一瞬早く僕の足はその場を離れていて雷は僕には到達しない。

 五度目の爆音と共に横薙ぎに斬り払われた右手の剣は、確かに何かをその切っ先にとらえ、赤いしぶきが宙に舞う。

「くっ、こんな――」

 そう小さくフェンリルが漏らした言葉が耳に入る。

 お互いに間合いを取りつつ相対する。

 左肩に大きな傷を負い、左腕を真っ赤に染めているフェンリル。だが、その目からは何か喜びの様なものが見て取れる。

「確かに僕には実戦経験は少ない、というかない。けれども、考えれば分かるさ。お前とどのように戦えば良いかという事は」

「フフッハハハッ、言うだけの事はあるようですね。実戦が初めてで、この僅かな時間でここまで戦えるようになるとは! 驚嘆に値しますよ」

 そこでフェンリルは言葉を区切り、左肩の傷口へと右手を当てる。

 一瞬、その手が青白く光ったかと思うと、深く開いていたはずのその傷口は跡形もなく消え去っていた。

 そう、一緒に切り裂かれたはずの服すらも元の姿を取り戻していたのだ。

 そこで僕は気が付く。いくつもの氷刃で傷ついたはずのその服が、何事もなかったかの様に修復されているという事に。

「私の能力は雷だけではないのですよ。あなた達程度、雷だけで十分だと思っていたのですが……どうやらあなたなら、もっと楽しめそうですね」

 フェンリルは不敵な笑みを浮かべ、右腕を大きく振り上げる。

 瞬時に危険を察知し、後ろに飛び退く。

 その直後、それまで僕が立っていた場所には巨大な雷が落ちてくる。しかし、その雷は床に突き刺さったまま、まるで剣の様にその場に残っていた。

「あなたが氷の刃を使うというのなら、私は雷の刃という事です」

 ゆっくりと歩を進めながらそういうと、フェンリルは床に突き刺さっている雷へと手を伸ばす。

 確かにフェンリルの言う通り、床から引き抜かれたそれは剣のように先端が尖った姿をしていた。

 どういう原理で雷が形を留めているのか。それとも、何か雷をまとった物体あるのか。

 そう考えながら奴の刃を見つめていると、

「この剣の正体が気になるようですね。まあ、そのうち分かりますよ。体が切り刻まれていく内にね!」

 一息で間合いが詰められ、フェンリルの高速の刺突がはなたれる。

 その一撃を僕は氷の剣で受け流す。しかし、

「ぐああっ!」

 雷の剣の切っ先は逸らしたものの、その剣に触れた氷の刃から電撃が体へと流れ込み、その衝撃に体が痙攣する。

「まだまだ、これからですよ」

 耳元からそう聞こえたかと思うと、今度は真横からの斬り払い。

 瞬時に氷の障壁を生成するが、それは水平に両断される。

 反応が一瞬でも遅ければ、僕の体も氷壁と同じ運命を辿っていただろう。後転し、体勢を整えると次の斬撃を迎え撃つ。

 最初の一手で分かったが、奴の刃を受ける事は避けなければならない。斬撃からは逃れられても、その刃に宿る電撃を受けてしまうからだ。

 あの剣がどういうものなのかははっきりとは分からないが、少なくとも受けた感じからは実体のある剣が雷を帯びている物だと考えて問題ないだろう。氷壁によってその勢いが衰えた事からもそれは間違いない。

 となると、斬撃は避けるか、直接触れずに何かで受けるか。

 続く刃は、正面から振り下ろされる。

 僕は左へと抜けて回避。そのまま氷の剣を突き入れる。

 フェンリルは床に刺さった剣を軸に回転し、突きを避けると同時に僕の後頭部めがけて回転の勢いの乗った蹴りを繰り出す。

 前に倒れ込む様にしてその軌道から逃れると同時に、その手の雷の刃が氷柱につつまれるように能力を発動する。フェンリルの刃について、確かめたい事があったのだ。

 すると、フェンリルはその手をあっさりと剣から離し、その発動範囲から逃れた。

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