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カイ2

 オレはセト様の話を聞き、自分なりに推理してみる。

 一瞬で現れて消える、そして空中に浮く。とても人間の出来る事とは思えない。そしてそいつが口にしていた名、ガルデルム。どこかで聞いたことがあるような……。

「どうしたのだ、カイ?」

 オレは考え込んでしまって、セト様の存在をすっかり忘れてしまっていた。

「あ、す、すみません。少し考え込んでしまって…」

「どうすればいいのだ! この前の件ですべて解決したと思っていたのに、ミルトがどうしたというのだ! 何も普通の子と変わらないのに、なぜミルトがこんな…」

 親の子に対する感情というやつはオレには良く分からない。けれども、普段と正反対の態度を見せるセト様の様子を見ると、その情というヤツがオレにも何となくだが分かるような気がした。

 どうすれば良い? オレは心の中でそう問いかける。

 解決策は何も浮かんでこない。話によれば、白いコートのそいつの目的はミルト様自身としか考えられない。セト様ほどの家となると金目当てということも考えられるが、今回のケースでその可能性はきわめて薄いだろう。そう前回と同じように……。

「あっ!」

 そこでオレは思わず声を上げてしまう。

「どうしたのだ? 何か解決策が!?」

「どうして今まで気が付かなかったのだろう。冷静になればすぐに分かる事なのに」

 セト様の言葉は耳に入らず、オレは一人で納得していた。

「おい、カイ!」

 一際大きなセト様の声に、オレはやっとセト様の方へ向き直る。

「す、すみません。あの思ったのですが、今回の件も前回と同じなのではないかと」

 オレは考えをまとめつつ、セト様へと話し始める。

「前回?」

「そうです。一ヶ月前の事件、今回もそれと同一犯、もしくは同じ組織の仲間が行ったのではないでしょうか」

「どういうことだ?」

「まず、ヤツ、というかヤツらというか、犯人の目的は金ではなくミルト様本人です。そして、先ほどの話で、『事情が変わった』とあります。今回は前回に比べてきわめて素早く、そして信じられないような事件です。いきなり現れたり消えたり、空中に浮いたりした事。前回はそこまでの事は無かったですが、事情が変わったために、今回はその人間離れした方法を使ってでも…という事になるのではないのでしょうか。そう、それに――」

 そこでオレの頭の中の回路が一つに繋がる。

「何だ? 続きがあるのなら早く! 事態は一刻を争うのかもしれないのだぞ!」

セ ト様は、一息ついたオレに先を急がせる。

「それにカズヤが…あの前回の事件の時、犯人の事をガルデルムと呼んでいた!」

 いつの間にかオレはセト様にというよりも、自分自身に言っていた。

 推測が確信へと変わる。

「セト様」

 オレは口調を整える。

「この事件が前回の事件と関係しているのは確かだと思います。しかも、前回よりも深刻な事態となっています。ここは、前の事件を解決したなんでも屋にまた頼んでみてはいかがでしょうか?」

 先程までは突然の事に少し驚いていたが、今のオレは冷静であった。

 いつもオレはそうだ。自分でも嫌になる程、常に冷静である。だから、隣に感情をあらわにしている様な人がいても、どうすればいいのか分からない。

 そんな時、特に自分のこの性格を憎く思う。自分でもよく分からない。どうしてこういつも自分は冷静であるのか。感情的になれないのか……。

 だが、今はそんな事はどうでもいい。今はとにかく、一刻も早くミルト様を連れ帰らなくてはいけない――


 「ガチャンッ」と、オレは受話器を少し乱暴に下ろす。

「だめだ、出ない」

 一人呟き、フウッと一つため息をつく。

 これで何度目だろう。カズヤの所に電話をかけるが一向に出る気配がない。

「いったいどうしたっていうんだ? アイツかアイさんのどちらかが家にいてもいいはずなのに…」

 あれから一時間程経っていた。セト様はオレの意見を聞き入れ、カズヤに依頼する事になったのだが――  

「埒があかない。直接行くか」

 オレはついに痺れを切らし、屋敷を出る。

 セト様はというと、自室にこもって仕事をしている。こんな時でも休む暇もないなんて、とは思うが、それだけの仕事をこなしているからこそ、このような屋敷があるのだ。

 これでも、会社へ行かなければならないところを家でやっているために、かなり無理をしている。

 もう空は闇に包まれかけている。夕焼けの日の光と夕闇とが混ざり合う不思議な空色の時間。けれども、今は呑気に空を見上げているような時間はない。

 オレは急いで車庫へと向かうと、暗い車内で運転席に座る。エンジンを入れるとハンドルに手を掛け、一気に足を踏み込んだ。

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