彼と彼女の秘密6
「そこで、こっちは二人と一人に別れる訳だけれど、私は攻撃は出来ないのよね」
「え? どういう事?」
僕は思わず聞き返す。
それに対して、ベータは肩をすくめるリアクションをとって答える。
「攻撃するような能力はないって事。さっき話した事と関係があるんだけど、シータは周りの物を壊すような能力を封印してしまったの。大量のアルド自体は私が使う事が出来る。けれども、破壊する様な能力は使えないの。回復したり、行動を封じたり、さっき奴らに使ったやつみたいなね。まあ、サポート中心の能力と思って良いわ。アルドを使わない格闘術は使えるけれども、シータって体はそんなに鍛えて無いのよね。だから、それだけでは奴らを倒せない」
「つまり、一人では戦えないって事だろ? 問題ない、オレが一人で黒い奴を倒してやるさ」
カズヤが自信満々にそう口にする。
「あなた、あいつより強いという確信でもあるの? 確かにその腕は武器としては一級品かもしれないけど――」
そのベータの言葉は、先程までと違って、今度のはカズヤをバカにしているという様な口調ではなかった。本当に大丈夫なのか、カズヤの意志を確かめる冷静な口調であった。
「やれるさ。さっきのお返しをしなきゃあ、オレの気は収まらないからな。それに……」
「それに?」
言葉が途切れたカズヤにベータが問いかける。
「いや、何でもない。とにかく、奴はオレがやる。銀髪の方はお前達二人に任せた」
その言葉にベータは、ハァーと大きく溜息をつくと、
「分かったわ。言っても聞かなそうだし……。でもね、最低限、時間だけは稼ぎなさいよ。一人で手に負えなくても、こっちがさっさと終わらせられれば合流出来るんだからね」
小さな子供を諭す様なベータの言葉に、
「一人で終わらせると、言ってるだろ」
全く聞く耳を持たないカズヤ。
それを聞いて、ベータはもうこれ以上言っても無駄だと諦めた様で、今度は僕の方を向いて話す。
「はぁ。まあ良いわ。私もエン君の方が好みだし、調度良いかもね」
「え、あ、じょ、冗談…だよね?」
僕は慌てて聞き返す。
すると、ベータはにっこりと微笑み、
「さあ、どうでしょう?」
と含みのある言い方をする。
だが、それは急に真剣な表情へと変わる。
「来るわ。エン君、分かってると思うけど、銀髪の男に取り付いて三人で一気に移動するわよ? その方法なら簡単に引き離せるから」
言い終わるや否や、美術室の扉が吹き飛ぶ。
「探しましたよ。十分休む時間はあったと思うのですが、そろそろお相手してもらえませんかね」
その言葉と共に姿を現したのは、先程体育館で見た無感情な表情とは打って変わってやけに爽やかな笑みを浮かべた色白の男。
「こそこそ隠れるのももう終わりだぜ。これだけ待ってやったんだ。勿論、楽しませてくれるんだろうな?」
続いて黒髪の男が教室へと入って来る。こちらは前の男と正反対の、見る者を恐怖させるような壮絶な笑みを伴っている。
一瞬、体がびくりと後ろに下がりかけたが、こんな事で怖気付いている場合ではない。
ぐっと足に力を込め、二人の男を睨み付ける。
「ふん、お前等こそやられる覚悟は出来ているんだろうな? さっきの様には行かないぜ」
と、自信満々に言い放ったのはカズヤ。
その言葉に前の男は何も反応せず、笑みを浮かべたまま。
後ろの男は鼻で笑い、
「一撃で動けなくなった奴が良く言うな」
カチンと言う音が聞こえた気がした。
気が付いた時には、カズヤは既に前方へと突撃を開始していた。
「試してみるか!?」
カズヤの叫び声が響く。
「あのバカ」
ベータの呟きが続き、視線が僕へと向けられる。
行くわよ、とその視線が語っているのを理解し、二人同時に銀髪の男へと向かって動く。
パキンッと何かが弾ける様な音がする。
それが、銀髪の男から発せられた雷撃がベータのシールドによって弾かれた音だと気付いた時には、既に僕達二人は銀髪の男へと肉薄していた。
左足で床を強く蹴り、反転して左足での回し蹴りを放つ。
狭い教室の中で避ける場所もなく、白銀の男は僕の蹴りを右腕で受け止める。
「今よ!」
ベータが僕の左腕を掴みつつそう叫ぶ。
そして――――僕は、後方に宙返りして体育館の床へと着地した。




