彼と彼女の秘密5
「さってと、後はベータの方なんだけど」
「そうね…」
ベータは小さく呟くようにそう言った。
そして、ゆっくりと話し出す。
「私自身、今まで自分が何なのか、はっきりとは分かってなかった。シータの中の人格の一つ、つまり二重人格の一つの人格として存在しているのだと思っていたわ。けれどもついさっき、自分が何なのかはっきりと分かったわ。エン君」
「え?」
呼び掛けられ、意味も分からずに返事をする。
「君のゼルプスト。あれと私は一緒なんだわ。ただ違うのは、エン君が自分の外側にそれを作ったのに対して、私の方は内側に作られたって事。そして、シータ自身は私の存在を知らないって事。これは、私が生まれた経緯が関係しているのだけれども…」
ベータは一度言葉を区切ると、窓外へと顔を向ける。
外には、相変わらずフィールドに覆われている事から、よどんだ雨空を更に暗くした様な景色が広がっている。
「シータは生まれた時から、普通では有り得ない量のアルドを有していたわ。それこそ、自分では能力を制御出来ない位に。アルドの簡単な放出方法は、破壊。シータは感情が不安定になると、自分の意志とは関係なしにアルドを放出し、周りの物を壊し、傷つけていった」
聞いた事がある。アルドの多い子供は、幼少期にその力をコントロールする事が出来ない場合があると。
ベータは淡々と話し続けていく。
「そして、それは両親も例外ではなかったわ。シータが三歳になった頃、両親はついに耐えられなくなり、シータを残し家を出て行った。この頃からかしら、私が作られ始めたのは。少しずつ、少しずつ、彼女自身の内にアルドが溜まっていったんでしょうね」
「それがベータ?」
僕の問いに、ベータは首を横に振る。
「まだ、その時は私とは言えないわね。親から捨てられたシータは、養護施設に入れられたわ。内にアルドを溜める事が出来るようになっていたので、両親といた時よりはアルドが放出される事が少なくなっていた。それでも、不意に力が暴走し破壊を起こしてしまうシータを、他の子供達は怖がって近寄らなくなっていった。施設でも一人ぼっちになってしまったシータは、だんだんと自分の殻へと閉じこもっていき、そして『私』という人格が生まれた」
ベータは、そこにシータが居るかの様に自分の胸に手を当てて話を続ける。
「シータ自身はその事に気が付かなかった。それは今でも同じなのだけれども、私の方はシータの時何をしていたかとかは分かるわ。でも、シータの方は私、ベータである時に何をしていたのかは全く覚えていないの」
大量にあって扱いきれないアルドを封印するために生まれたのがベータなのだとしたら、確かにシータ自身はその事を知らない方が良いのかもしれない。
知ってしまったら、また扱いきれないアルドが流れ込んでしまうのだろうから。
「その後、シータはFOLSに出会った。何処で聞きつけてきたのか、四歳かそこらの子供の能力を見抜いたFOLSの『彼』は、シータを引き取って行ったわ。施設で孤立していた彼女が引き取られるのに反対する者はいなかった。むしろ、厄介者がいなくなったとさえ思っていた者もいたでしょうね」
そう言って、シータは自嘲気味に笑う。
その様子が痛々しくて、僕は思わずベータから視線を外していた。
ベータの話はまだまだ続く。
「FOLSに入ってすぐに、シータのアルドが本来予測されていたものより大幅に低い事が判明したわ。それはそうよね。私の方にアルドのほとんどが来ていたんだから。シータ自身のアルドの量は、普通の人のそれより少し多い位しか残っていなかった。このままでは、この場所からも居場所を失ってしまう――そう思った私は『彼』に私の存在を教える事にした。『シータの力は私が殆ど受け取ったわ』ってね」
こう何度も出て来ると、気になってきて質問せずにはいられない。
「その、『彼』っていうのは?」
「当時のベータよ。私に仕事を押しつけて、今は引退してしまったけれどもね。私の存在を知った彼は、シータを一隊員のシータとして育て、私を自分の後継者として育てた。結果として今の私がある訳だから、彼には感謝しているわ」
なんだか湿っぽい話になってしまったなぁと思ったが、ベータには気をつかったら逆に怒られそうだ。
そう考えて、
「そっか。これでベータの謎は解けたよ。改めてよろしく」
と、僕は今までと変わらぬ調子でそう言って右手を差し出した。
それを見てベータも右手を差し出してくる。
「そうね、改めてよろしく、エン君。カズヤ、あなたもね」
僕と握手を交わした後、半ば無理矢理にカズヤの右手を掴むベータ。
「あ、ああ、よろしくな」
カズヤはどう対応して良いか考えていたようで、なんだかぎこちない。
そんなこちらの心中などお構いなしに、ベータは話を進めていく。
「さてっと、お互いの事も分かったし、本題よ。奴らをどうやって倒すか。基本的には、二人をばらばらにした方が戦い易いとは思うわ。何故なら、一方がズスフィールドを張っている以上、張っている本人、つまり銀髪の奴の方は守りに集中し、黒い奴の方が攻撃専門になるはずだから。そんな訳で、この場合はバラバラに相手をするのが得策って事。ここまでは理解した?」
「おっけ」
「ああ」
僕とカズヤは、続けてそう返事をした。




