彼と彼女の秘密4
「おい、大声出すなって言ったのはお前だろ」
その反応に驚きベータの方を向いたカズヤは、静かにそう口にする。
「そ、そうね。私とした事が…。エン君、話を続けてちょうだい」
我に返ったベータはそう言うと、元通りに机へと寄りかかる。
それを確認すると、僕は再び口を開く。
「何故、人にはそれぞれアルドの限界があるのか、そして、その限界に人それぞれ違いがあるのか。僕はそれについてまず考えた。色々考えたんだけど、辿り着いた考えは単純なものだったんだ。一人一人、それぞれアルドを入れる事の出来る入れ物を持っている。その入れ物の大きさの差が、個人のアルドの差となる、と」
「それは仮定の話よね? 実際、その入れ物の様なものが見える訳ではないんでしょう?」
ベータの問いに頷きを返す。
「そう、仮定だね。そして、その仮定が成り立つとしたら、こう考えられる。元々持っている入れ物が変えられないのなら、外にもっと大きな入れ物を持つ事で、より多くのアルドを持つ事が出来るんじゃないかってね」
そこで、僕は首にかけていた「お守り」を取り外す。
「それが、その外側の入れ物だと言うのかしら?」
「これ自体が、という訳じゃないけどね」
僕は目を閉じる。そして、「お守り」を強く握りしめ、
「出ておいで、ゼルプスト」
そう呟き、手を開く。
一瞬、「お守り」が青く光るのが見え、次の瞬間、僕の隣にゼルプストが姿を現す。
「うお?」
「へえ…」
カズヤとベータが二者二様の反応をする。
驚いて、後ろに倒れそうになるカズヤと、目を細め冷静にゼルプストをじっと見つめるベータ。
ゼルプストは四本足の獣の姿で、頭の高さが僕の身長と同じ位なので、けっこう大きい。
けれども、実体を持っている訳ではないので、半透明なその身体は、僕のすぐ傍にある机や椅子をすり抜けて床に立っているっていう感じだ。
僕は隣のゼルプストの顔を見上げ、
「大丈夫だよ、ゼルプスト、怖くないからね」
やさしく言葉をかける。そして白銀のたてがみへと手を伸ばし、やさしく撫でる。僕自身は、実体の無いその身体に触れる事が出来るのだ。
「人前に出るのは初めてだから、動揺してるみたい。ちょっと待ってね」
二人に向けてそう言うと、両手でゼルプストをゆっくりと優しく撫でる。
しばらくすると、ゼルプストの気も落ち着いてくる。
「落ち着いたみたい」
二人に向き直りそう言うと、
「そうか? 何も変わったようには見えないが」
と、カズヤからもっともな意見。
確かに見た目には何も変わっていないのだ。
「ゼルプストは鳴いたり喋ったりは出来ないけど、感情はちゃんとあるんだ。そして、僕にはそれが手に取る様に分かる」
「ふーむ、そうなのか」
「で、話を戻すけど、彼――ゼルプストが僕のアルドの入れ物、というかアルドそのものなんだ」
僕の言葉に、
「そう、そういう事だったのね…」
ベータは何故か淋しげに呟く。
カズヤもその言葉を変に思ったのか、ベータの方へと顔を向ける。
その視線に気づいたのか、気づいていないのか、
「話、続けてちょうだい」
やはり、先程までとは明らかに違う口調でベータはそう言った。
その変化が何を意味しているのか気になったが、言われた通り僕は話を続ける。
「普段はこの『お守り』の中にいる――というか一体化していて、僕からアルドを常に吸収している。つまり、僕のアルドが食料の様になっているんだ。そして、必要な時だけ逆に僕がアルドを引き出す事が出来る」
カズヤが「お守り」を指さす。
「そいつの外見と、そのお守りと関係あるのか?」
「お守り」には、頭に鋭い角がサイの様に二本生えた馬の絵が描かれている。
そして、ゼルプストも二本の角を携えた、白銀の馬の様な姿をしている。
「そうだね。媒体は何でも良かったんだ、ただ僕のイメージが固まりさえすれば。ゼルプストの姿は、僕のイメージから出来ているからね」
「ふーむ」
「少量のアルドを引き出すだけだったら、この姿をとる必要はないんだけれども、多くのアルドを必要とする場合、こうやって実体化して、そして――」
そこでゼルプストの体が白く光り、そしていくつもの光へと分かれて僕の体へと向かう。
「となる訳」
ゼルプストの姿は見えなくなり、代わりに僕の体の周りがうっすらと白く輝いている。
「体の外側にアルドをまとった、って事かしら?」
「その通り」
FOLSだけあって、ベータはすぐに何をしたのか理解した様だった。
一方、カズヤの方はいまいち良く分かっていない様子で、
「で、どういう事なんだ?」
と質問してくる。
「さっきも話した通り、人それぞれ体の中に持てるアルドの量は決まってる。だから、体の外側にまとって、そこからアルドを使えるようにしたって事だよ。アルドでできた服を着ていると思ってもらって良いかな」
「ふーむ。良く分からないが、その状態だと普段より強い能力が使えるって事か?」
「まあそういう事だね。因みに、アルドの使い方も色々修行しているから、それなりに使える能力はあるよ」
ベータの方へと顔を向け、
「能力も使って見せた方がいいかな?」
問いかける。
「いいえ、それだけ分かれば十分だわ」
「じゃあ、ゼルプストにはひとまず戻っていてもらうよ」
体から光が消え、「お守り」が一瞬光る。
ゼルプストが「お守り」の中へと戻ったのだ。




