彼と彼女の秘密3
そこでカズヤは、ん? と顔をしかめる。
「というかよ、回復出来るんならさっさと回復してくれりゃあ良かったんじゃないのか? 人が動けずに苦しんでたってのに…」
「それは、今みたいにあなたが五月蝿くなるからしなかったに決まってるでしょ。そんな事も分からないの?」
「お、ま、え、な――!」
少し歩み寄ったかに見えたが、結局はこうなるようだ。
僕は再度、二人の間に入る。
「カズヤ、今のところは落ち着いて。ベータもそんなに挑発する様な事は言わないで仲良くね」
「そう、だな。今はこんな事で揉めてる場合じゃないな」
「そうね。バカに構っててもしょうがないわ」
再び言い返そうとするカズヤをなんとか収めて、僕は話を切り替える。
「それで、ベータの事というか、シータの事というかその説明はしてもらえるんだよね?」
ベータは「ああそうだったわね」と思い出したように呟き、
「私の事は後でいいわ。先にあなたの方を説明しなさい、エン君」
と命令口調で返してきた。
今までのやり取りからして、言い返しても結局押し切られそうなので素直に口を開く。
「えーと、僕の方というと――」
「あなたの能力よ。実際はどの位のアルドがあるのか。それに、どうしてその力を隠していたのかって事も知りたいわね」
そこで僕は気が付く。
「あ、話すのは別に構わないんだけど、その前に着替えても良いかな?」
「着替える?」
「そう、鞄の中に制服が入ってるんで」
そう言って、足下に置いておいた自分の鞄を手に取る。
「そうじゃなくて、何故着替える必要があるのか聞いてるんだけど」
「そりゃ、その方が動き易いからさ」
「はあ? 制服よりジャージの方が動き易いに決まってるじゃないの」
ベータは顔をしかめる。
「とにかく着替えるから。まあ、見たいなら見ていても構わないけど」
そういってチャックを下ろしジャージの上着を脱ぎ、Tシャツ姿になる。
「分かったわ、さっさとしなさい」
ベータがそう言って後ろを向きかけ、
「ドサッ」
という上着が床へと落ちる音に、その動きが止まる。
ベータはその上着へと視線を向け、ズボンを脱ぎかけていた僕へと視線を戻す。
「エン君、それ――」
「ん? 上下合わせて五十キロ位かな」
「そうなの。こっちも相当なバカみたいね」
呆れた様子でベータはそう言うと、後ろを向く。
僕は手早く制服のズボンへと履き替えると、鞄から取り出した白いワイシャツを手に取り、着ようか着まいか三秒ほど考え、やっぱり着ない事にした。
そして、ワイシャツはそのまま鞄の上にのせて床へと戻す。
「半袖じゃあちょっと寒いけど…これから動くんだろうし、もう良いよ」
と、ベータへと知らせる。
振り返ったベータはすぐに質問してくる。
「そのシャツは普通なの?」
「うん。これはね。普段、制服の下にはこっちのを着てるけど」
そう答え、鞄から鉄の織り込まれたシャツを出して見せる。
ベータは再び呆れた様な表情をする。
「エン、この世界じゃあお前みたいに能力使えるのが普通なのかと思ってたが、もしかしてエンは普通じゃなかったのか?」
カズヤの質問に答えようと口を開きかけたが、
「そうね。普通の人もそれなりにアルドを使えるけど、突然現れたり消えたりなんて普通は出来ないわね」
ベータが先に答えてしまう。
「まあ、エン君の能力がそれだけとは思っていないけれど。そうでしょう? その、全くアルドを感じさせないという事の秘密を知りたいわね」
二人の視線が僕へと集まる。
「ちゃんと話すって。まず、ちょっと聞いて欲しいんだけど、僕がFOLSに憧れてた事はベータは知ってるよね?」
「そうね。シータが知ってる事は私も知ってると思ってもらって構わないわ」
「カズヤのために説明するけど、FOLSっていうのは、さっきのARUTOっていう組織の奴らと戦う組織の名前で、それに入るために僕は自分を鍛える事にしたんだ」
「なるほど。それでその重量付きの服を着てた訳か」
カズヤは納得して頷きながらそう言った。
「まさか、FOLSに入るために鍛えているような人間がいるとは思わなかったけれどもね」
ベータがそう言い、
「普通は入隊してから鍛えるらしいね」
僕が付け加える。
「知ってるんじゃない。FOLSに入るには優れた能力、アルドさえ持っていればいいのよ。肉体は鍛えれば強くする事は出来るけれども、アルドは生まれつきで決まっていて、その量はほぼ変わる事はないからね」
「そう、そうなんだ」
僕は大きく頷きつつ、そう口にした。そして、続ける。
「本来、アルドの量は生まれつき決まっている。そして、僕にはFOLSに入れるような能力は無かった」
「無かった?」
ベータが、いぶかしげにそう聴き返す。
「そうだよ。僕には普通の人達と同じ程度のアルドしかなかった。だから、僕は考えた。考えて、考えて、考えて、そしてついに、アルドを増やす、アルドを鍛える方法を見つけたんだ」
「何ですって?」
まるで食いつくかの様にしてベータは身を乗り出しながら、半ば叫ぶ様にしてそう言った。




