彼と彼女の秘密2
しかし、そう聞かれてもカズヤの本調子の状態を見た事はないので、どう答えていいのやら。
「えーっと、とりあえず、カズヤが異世界から来たってのは知ってるよね? そのために学校に来たみたいだったし」
「ああ、そういえばそうだったわね。こいつのあまりの間抜けっぷりにすっかり忘れてしまってたわ」
「お、ま、え――」
まあまあ、と肩を押さえてカズヤの怒りをおさめ、話を続ける。
「それで、カズヤはここに来る時の転移でアルドのほとんど全てを使い果たしてしまったみたいなんだ。僕がその場にいなかったらそのまま死んでいたかもしれない」
「全部使い果たした? 一体どんな転移をしたのよ? たいしたアルド持ってないだけじゃないの?」
ベータのあきれたような声に、
「知らねえよ。変な装置にこの左手で触ったら、急に体が光に包まれて…気が付いたのは、エンに助けられた後だ」
カズヤがぶっきらぼうに答える。
「そうそう、その左手だよ。ベータ、見てみて」
ベータにカズヤの左腕を見てもらおうとそう促す。
「何? そいつの手に何かあるっていうの?」
顔をしかめつつカズヤの左腕へと視線を向けるベータ。
「ちっ、こんな奴に――」
「何かあるんだったらさっさと見せなさい」
ベータの鋭い言葉が突き刺さり、カズヤは渋々と腕をまくると左手の手袋を取る。
そして、
「それは――」
ベータの動きが止まる。
何か、信じられない物を目にしたかの様な、見てはいけない物を見てしまったかの様な――そんな表情で固まっていた。
カズヤはその反応に何事かと眉をひそめ、ベータの顔を覗き込むようにして見つめる。
「ベータ? どうかした?」
しかし、ベータの反応はなくそのまま数十秒間、沈黙が流れる。
そして、
「ちょっと良く見せなさい!」
止まっていた時が動き出したかの様に、急にそう言葉を発したベータは、カズヤの左腕を見ようとしゃがみ込むとその腕を引っ掴む。
「いつっ、おい、そんな引っ張るな!」
勢い良く左腕を引かれ前のめりになったカズヤがそう言ったが、ベータの耳には何も聞こえていない様子で、熱心にその左腕を見つめている。
「な、何だぁ、おい?」
左腕を表にされたり裏にされたりと、されるがままのカズヤが助けを求める様にこちらを見上げる。
「さ、さあ? 僕に聞かれてもね」
そのまま、僕とカズヤはベータの行動をただ見ているだけで数分が流れ、
「あなた、これを使いこなせるの?」
やっと口を開いたベータは、何故か恐る恐るといった感じでそう口にする。
「うん? 当たり前だろ。こいつはもうオレの体の一部だ。使いこなせない訳がないだろ」
いぶかしげに答えるカズヤ。
その答えに、
「そう」
とだけ言ってベータは立ち上がると、そのまま机に腰掛け、腕を組んで何か考え込んでいる様子。
カズヤの方は、やっと左腕を解放されてふうっと息をついている。
しばらくして、
「まあいいわ」
何が良いのかは分からないが、ベータはそう口にした。
「何がだ?」
カズヤが不機嫌そうにそう言うが、ベータはそれには答えず、
「あなたも戦力として考えてあげましょう。カズヤ、だったかしら? よろしくね」
さっきまでのカズヤに対してよりは、若干やわらかくなった口調でそう言った。
「アルドを回復してあげるわ。しばらくじっとしていなさい」
「ん?」
眉をひそめるカズヤにお構いなしに近付くと、その額へとベータは両手を当てる。
すると、その接している辺りが青白い光に包まれる。その間、十数秒。
光がおさまると、ベータは両手を離す。
「もう良いわよ。体、動くでしょ?」
その言葉にカズヤは首を回し、腰を回し、立ち上がり、屈伸し、軽くジャンプし、
「おお? 体が軽い!」
驚きと喜びの混じった声を上げる。
「ベータ、今のは?」
僕はベータが何をしたのか気になり、問いかける。
「私の能力の一つ。身の周りからアルドを集めて、対象の人物のアルドへと変換するの。私自身のアルドを分け与える訳じゃないから、多くのアルドを回復する事が出来るわ。それにしても――」
そこでベータはカズヤの方に向き直り、まじまじとその顔を見つめる。
「なんだよ?」
「なんでもないわ。ただ、あなたのアルドの潜在量がこれ程多いとはね。今ので半分位しか回復してないわ」
それを聞いたカズヤは得意げな顔をして、
「へっ、分かれば良いのよ。分かれば」
頷きながらそう言った。




