彼と彼女の秘密1
「で、さっき目の前に現れた二人組は、エン君は分かっているんだろうと思うけどARUTOの人間よ」
目の前のベータと名乗ったシータのそっくりさんは、そう簡単に説明した。
ベータというのもFOLSでのコードネームだと思われる。
確かにさっきまでのシータとは思えないような姿だし、言動も明らかに別のものだ。二重人格? はたまた憑依能力とか? もしかして、一瞬で物理的に入れ替わったとでも言うのだろうか?
そんな事を僕が考えていると、カズヤは、
「ARUTOってのは何だ?」
当然の疑問を口にする。
「とりあえず、私達を襲ってくる敵だって分かれば良いわ」
シンプルな返答にカズヤは、
「敵、ねぇ」
と、不満げに漏らす。
けれども、ベータは全く意に介さず話を続ける。
「それで、あのままじゃあ二人と戦うのは危険だと判断し、エン君の能力で一旦退却した訳。分かったかしら」
「ああ、あの突然現れたりするやつか」
カズヤの呟きに、
「あら、エン君。こいつはあなたの能力の事を知っていたのね」
と、ベータは意外そうな顔をして僕の方を見る。
「え、うん。知ってたらおかしいの、かな?」
なんだか責められている様な気がして聞き返してしまう。
「だってそうじゃない。この私でさえ、今朝あなたがその能力で近付いて来るまで気が付かなかったんだから。ま、シータはその能力に全然気付かなかったみたいだけど」
ベータはやれやれといった感じで肩をすくめる。
「いや、カズヤには隠す必要無いかなーっと思って…」
「まあいいわ。なんでそこまで完璧に能力、つまりアルドを隠せていたのかは気になる所だけど…とりあえず話を戻すわ」
そう言うと、ベータは窓の外へと視線を向ける。
「現在、この建物の周りはズスフィールドっていうもので囲まれていて、私達は外界から完全に孤立してしまっている。行き来はおろか、通信すら出来ないわ」
「その『ズスフィールド』ってやつは何なの? あの銀髪の男が能力を使った様に見えたんだけど」
僕も窓外へと視線を向ける。
校舎から数メートル先にそのズスフィールドがあるらしく、分厚いすりガラスを通しているような感じで、向こう側の景色は全く見えない。
「詳しい原理は分からないわ。知りたいなら彼らARUTOに聞くしかないわね」
「いや、それはともかく――」
僕が問いかけようとすると、くすっとベータは笑い、
「分かっているわ。このフィールドで囲まれた内側は、外側の時間の流れから隔絶されてしまう」
僕の意をくんで、先にそう答える。
「時間の流れ?」
「そう。例えば、今このズスフィールドを壊して外に出たとしたら、そこは昨日かもしれないし、一週間後かもしれない。ともすれば百年前かもしれないし、百年後かもしれない。そういう事よ」
その説明に、僕は驚きを隠せず、
「えぇ! そんな事――」
「だから原理は分からないと言ったでしょう。ただ、今まで私達FOLSは何度となく経験してきた。その経験から話しただけよ」
ベータは何でもない事の様に話したが、僕は驚くと同時に酷く焦っていた。
ベータの言う通りなら、この状況を脱する事が出来たとしても、元の時代に戻れないかもしれないのだから。
「で、今重要なのは、その中でどうやってこの状況を乗り切るか、よ。出てからの事は後にしなさい」
僕の心の中を読んだかのようなベータの言葉。
確かにそうだ。それに、ベータは何度も経験していると言った。きっと何か手立てがあるに違いない。
「分かったよ。それでどうするの? ズスフィールドを破る?」
「直接破るのは無理よ」
ベータは首を横に振る。
「ズスフィールドを破る方法は二つ。一つは外側から大量のアルドをぶつけ破壊する方法。もう一つは、発動者を倒すって方法」
「なるほど、じゃあ僕達に出来る事は――」
「奴らを倒すって事か」
今まで黙って聞いていたカズヤが急に口を開いた。
「そういう事。最低でも、ズスフィールドを発動している銀髪の奴を倒さない限りは、この状況を変える事は出来ないわ」
「黒い奴も倒してやるさ」
カズヤが吐き捨てる様にそう口にし、すぐさま脇腹へと振り下ろされるベータの足を左腕で受け止める。
「あら、いい反応ね」
「お前、いい加減に――」
「まあまあ、落ち着いて」
再び言い争いが始まる前に、二人の間へ割って入る。
「この男が身の程知らずな事を言うからよ。あの程度の攻撃で動けなくなる様な力で倒せる訳ないじゃない」
「だから本調子だったらあんなもん何でもないって言ってるだろう!」
怒気を含んだカズヤのその言葉に、
「エン君、どうなの? こいつも戦力になるの?」
ベータはカズヤではなく僕へと問いかける。




