檻の中へ2
東棟を回り込み、駐車場を歩き続けるシータ。その足は、体育館の入口へと向いている。
東棟の陰からその後ろ姿を僕は見続ける。
「間違いない、かな」
シータの手が入口へと掛かったのを確認すると、僕はそう呟いた。
シータは体育館へと入って行く。
流石にこの位置からは体育館の中の様子を見る事は出来ない。
ここまで来たら、もうシータの前に姿を現しても問題ないだろうと判断し、一歩足を踏み出すと同時にスティルシーステップスを発動、一瞬で開かれた体育館の扉の前へと移動する。
シータは五メートル程前方で静かに直立していた。後ろに現れた僕には気が付いていない様で、そのまま動かない。おそらく、カズヤがどこにいるのか探っているのだろう。
僕の予想は当たっていたようで、一、二分の後、シータの体がピクリと動き、カズヤの居る倉庫の方を向く。
そして、歩き出そうとして、
「待って、シータ!」
瞬間、バネが引き戻されるかの如くシータはこちらを振り向く。
「エン君!? ど、どうして、あなたがここに…?」
シータの顔には驚愕の表情がはっきりと浮かんでいた。
ただ単に、僕がいきなり声をかけたから驚いた訳ではあるまい。
彼女は今の今まで精神を集中させ、カズヤが何処にいるのか、周りに変わったアルドが感じられないか調べていたのだろう。
そんな時に普通の人間が近付いて来たら気が付かないはずがない。周りを調べる事だけに意識を集中していたというのに。
そんなシータの内心に気付きつつも、僕は何でもない風を装って答える。
「それはこっちのセリフだよ。僕は、朝のジョギングをしていたらシータの姿が見えたからここまで追ってきたんだ。だって、こんな朝早く学校行くのって変だろ?」
シータはどう反応して良いか分からないという様子。なので自分から動く事にする。
「人を捜しているんでしょ? だったら僕に付いて来て」
シータの横を通り過ぎ、カズヤの居る体育倉庫へと向かう。
「ま、待って!」
なんとか喉の奥から絞り出したかの様なその叫びを聞き、僕は振り返る。
「中は危――」
「危険は無いよ。安心して」
と、言葉通り安心させる様に笑顔でそう口にしたが、予想外の出来事の連続に頭がショートでもしたのかシータの反応はない。
そのまま元の方向へと向き直り、体育倉庫へと再び歩を進める。
「ガラガラッ」
扉を開き、中を覗き込む。
すると、相変わらず薄暗い倉庫の中からすぐに声が発せられる。
「エンか?」
「うん、なんかちょっとばれそうだったからさ」
暗闇の中、輪郭だけなんとか分かる程度しか見えないが、座っていたマットの上からカズヤが立ち上がるのが分かった。
「誰かいるのか?」
「あ、うん。友達がね。って、もう立てるの?」
「ああ、問題ない。もう体力も回復したしな」
カズヤはゆっくりと歩きこちら、倉庫出口へと向かって来る。
そういえばカズヤが歩いているのを見るのは初めてだな、とどうでもよい事を考えていると、
「で、どうなっているんだ?」
傍まで来たカズヤがそう囁いた。
「ん~、彼女は別世界から来た者に対処している組織の人なんだけど…」
カズヤの声に合わせ、僕も小さな声で返す。
「オレを捕まえに来たってか?」
「ん~良くは分からないけど、この世界を荒らすつもりが無いなら大丈夫だと思うよ」
「言った通り、オレは人を捜しに来ただけだ」
「分かってる。まあ、本人に聞いた方が早いでしょ。待ってて」
カズヤをその場に残し、僕はシータの所へと向かう。
「シータ、彼はARUTOの人間じゃないから心配しなくて大丈夫だよ」
そう僕が説明すると、
「えっ、あ、そうなんだ……」
と良く分かってなさそうな返事。
だが、次の瞬間。目を大きく見開き、はっとした表情でシータは僕の顔を見直した。
「言ったでしょ? 僕はある事件でFOLSの事を知ったって。その敵が、ARUTOだって事も知っている」
シータはまたもや驚いているよう様で、言葉も出ない様子。
続けて言葉を発しようとした、その時、
「!?」
空気が変わった。否、実際に空気が変わった訳ではないのだが、今まで経験した事のない重苦しい気配が周りに広がっていた。
「こ、これは?」
「そ、そんな! こんなことって…?」
他の二人もその変化に困惑の声を上げる。
と、カズヤの様子を見ようと振り返ったその目に、二人の男が映る。
その瞬間理解した。
――――ARUTOが現れた――――
信じられない事だが、それが事実だった。




