嘘の中の真実3
「ああ、それはもちろんやらねばならないね。と言っても、直接敵と戦う者でなければ鍛える必要はないけれどもね。FOLS全員が戦闘員という訳ではないからね」
返ってきたのは僕が口にした言葉への答えのみで、それ以上の事はない。
聞かれた以上の事を話すつもりはないのか、それともスカウトをしている事は言えないのか。
このまま当たり障りのない質問をしていても、返ってくる答えは知っている情報の範囲でしかないようだ。こうなったら、ある程度踏み込んだ質問をするしかない。
「分かりました。ところで、少し気になる事があるんですが聞いても良いですか?」
「ん? 何かな?」
「どうしてFOLSの隊員章をシータが持っていたんですか? 隊員章であるならば、本人が常に持っていなければならないんじゃないんですか?」
「ああ、その事か」
シータの父と言う男は特に全く気にする様子もなくそう口にしたが、その横にいたシータは一瞬はっとして横の男へと顔を向けたのを僕は見逃さなかった。
「あれは、本当はお守りなんだよ。外から見ると隊員章の様に見えるかもしれないが、中身は違って発信機になっているんだ。私の娘という事で敵に狙われる可能性があるからね。何かあった時のための保険…だね」
なるほど、そう返してくるか。
さっきのシータの反応からして、何か用意がしてあるとは思えないのだが…。
「じゃあ、なんで隊員章の形を? そういう理由であるなら、もっとFOLSと関係ない様な見た目の方が良いんじゃないですか?」
「それは実物を見てもらった方が早いかな。シータ、ちょっと彼に見せてあげなさい」
「え? は、はい」
シータは明らかに驚いた表情をしたが、言われた通りに隊員章らしき物を取り出すと、僕へと差し出してくる。
ぱっと見では、昨日ぶつかった時に拾った物と同じだ。
「中を開いて見てみなさい」
僕は言われた通り、受け取ったものを開こうとする。だが、
「あれ、開かない?」
手帳型のそれは、両手で力いっぱい開こうとしても全くびくともしない。見た目も触った感じも普通の手帳の様にしか思えないのだけれども…。
「これは一体どうなっているんです?」
何も言わずに僕の様子を眺めていた男に、僕は問い掛ける。
「その手帳には、アルドによって特殊な結界の様なものが張られている。それを解く事が出来るのは持ち主本人だけ。まあ、解くといっても本人ならば普通に開けようとすれば開く訳で、特別な何かをするんじゃないんだがね。自動的に個人認証するシステムが付いていると言えば分かり易いかな」
その説明に、僕は首を傾げる。
「それで、そのシステムと発信機とどういう関係が?」
「それはね、結界が発動している限り、その中身には傷一つつける事が出来ないようになっているんだ。つまり、どんな事があっても中身は壊れないって事だ」
「なるほど、そういう事なんですか」
と、とりあえずは答えたものの、だからといって、それが隊員章ではないという事にはならない。そして、僕の「発信機が隊員章に似ているのは何故か」という問いに対する答えには全くなっていない。
それが隊員章だったとしても、何かあった時のために発信機がついていたとしてもおかしくはないし、結局中身は見ていないのだから。
分かったのは、ただシータの持っている隊員章らしきものが厳重に守られているという事だけ。
「本物の隊員章、つまりあなたの持っている物を見せてもらう事は――」
「中身を見せるという事はちょっと出来ないんだが…」
僕が言い終わる前に答えが返ってくる。
目の前の男は懐へと手を入れ、出て来たその手にはシータの物と見た目は全く同じ物が握られていた。
男はその隊員章を僕の方に向け、
「これを開けば、私の所属や名前などのFOLSとしての身分証明が書かれている。写真入りでだ。だが、それを任務外で誰かに見せる訳にはいかないのだ。すまないな」
そう謝ると、再び懐へと隊員章を戻す。
この事について、これ以上質問しても話せる事は無いという事か。
「いえ、こちらこそ無理を言ってしまって。本物も見てみたいなってちょっと思っただけですから。これ、ありがとう、シータ」
そう言って、手の中の物をシータへと返す。
「いいえ」
シータは微笑みながら受け取ると、そのまま懐へと戻す。
「他に何か聞きたい事はあるかね?」
男の方から他に、と話を振って来た以上、やはり別の話題に移るべきだろう。
「あ、はい。えっとですね…」
今までの話の流れから、後一つ、聞いておかなければならない事は決まっていた。
そう、それは、
「FOLSに入るにはどうすれば良いんですか?」
この事については何も会話に出していなかったし、FOLSに憧れている僕が質問してもどこもおかしくはない。むしろ、しない方がおかしい。
これはさっき浮かんだ疑問、スカウトについて言えないのかどうかという事への答えにもなるはずだ。
「ふむ、FOLS入隊についてか」
男はまた考え込むような仕草をすると、シータの方に一瞬ちらりと目を向ける。
そして、口を開いた。




