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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第三楽章 ε
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異邦人5

「これで今日の授業は全て終わりだったか?」

「あ、うん」

 ひとまず僕はふうーっと息を付き、そう答えた。

 その様子を見て、

「何だ? 何かあったのか?」

 と、鋭く言葉を刺してくるカズヤ。

「へっ? い、いや、ちょっとクラスでごたごたして――」

 僕が言葉を濁して返すと、

「女関係か」

 と、即座にカズヤは見抜く。

 僕が一瞬言葉に詰まると、

「当たりの様だな」

 鼻で笑う様に呟くカズヤ。

 そろそろ目も慣れてきて、カズヤの表情を見て取る事が出来た。

 彼は笑っていた。ニヤニヤという風な、からかう様な笑顔ではなく、心から楽しんでいる様な、そんなさわやかな笑顔だった。

「気持ちも落ち着いてきたみたいだね、カズヤ」

 僕も笑顔で返す。

 その言葉に一瞬はっとしたような表情を浮かべたが、カズヤはすぐに元の表情に戻り、

「そうだな、いつものオレに戻れたのかもしれない」

 と頷く。

「アイの事を絶対に見つけ出してやるって、気持ちだけが先走っていても何もで出来ない。実際、体は動かないんだからな。何も出来ないっていう状態をやっと受けられたっつーか…。ま、やっと普段の調子に戻ってきた。精神的にな」

 カズヤは左手で自らの漆黒の髪をかき上げ、そのまま左腕へと視線を向けるとじっと見つめる。

 その仕草から、なんとなく気になっていた事を不意に思い出し、カズヤへと問い掛ける。

「そういえば左手だけ手袋してるよね。その黒いの。もう片方は?」

 カズヤは視線を腕から僕へと上げ、静かに口を開く。

「そうか、こいつの事はまだ話してなかったな」

 と、右手で左手を、正確には手袋を掴むとすっと引き抜く。その下から現れたのは変わらぬ黒い手。

 薄暗いこの場所では、それが何なのか瞬時に判断する事は出来なかった。

「こいつは義手さ。特製のね」

 指を大きく広げ、そして強く握り締める。すると、微かにその拳の周りが青白く光りだす。

「これが、お前達の言うところのアルドってやつなんだろ? 扱い方を知らなかったオレでも、こいつのお陰でその力を引き出す事が出来るようになった。ま、アルドという概念を知ったのはお前の話からだが、な」

 言い終わると同時にその光は消え去り、辺りには元の暗闇が訪れる。

「ハァ、ハァ、ハァ…まだ、全然、力戻って…」

 荒い息遣いで倒れ込む様にしてマットに横になるカズヤ。

「ちょ、ちょっと無理しないで。せっかくアルドが戻って来てるんだから!」

 僕は慌てて駆け寄る。

「大丈夫、だ。ちょっと…眠くなっただけ…話の続きはまた、後で、だ…」

 と、カズヤはそれだけ言うと、すうすうと寝息を立てながら眠りについてしまう。

「おーい……全く、せっかく戻ってきたアルドを放出しちゃうなんて何考えてるんだか」

 もう聞こえてはいないだろうが、とりあえずそう言い返す。

 けれども、僕はカズヤの左腕の能力に激しく興味を引かれていた。

 アルドの存在すら知らなかったカズヤに、アルドを引き出し制御する力を与える。

 確かに人為的にアルドを引き出すような装置は、この世界でも今までいくつも作り出されてきた。

 しかし、それらはただアルドを引き出すだけのもの。自動でそのもののアルドを引き出すだけ。アルドだけを引き出しても、それを制御する事が出来なければ活用範囲は狭いのだ。

 けれども、カズヤのそれは個人の意思によって制御する事が出来る様だ。それが意味するところは――

「自分の扱える能力外の力をも引き出す事が可能、という事か…?」

 ぶるっと体が震える。

 もし僕の考えが正しければ、これは今のこの世界の技術レベルを遥かに越えた物で……。

「っと、カズヤは寝ちゃったし、こんな事考えててもしょうがないな。そういえば、トレーニングの時間か…。朝も中途半端なままだったんだから、午後のトレーニングはしっかりやらなきゃいけないかな」

 先走る考えを落ち着けようと、自分に言い聞かせる様にそう声に出す。

「それに、もう一度あの場所に行けば、カズヤの言っていたアイさんの手掛かりが…もしかしたら、何か掴めるかもしれない」


 それから五分も経たない内に、僕はそこに着いていた。

 スティルシー・ステップスを使い倉庫から林の中まで移動し、あとは走って来たのだ。

 走ったのは時間短縮という事もあったが、準備運動も兼ねてだ。

「昨日のトレーニングも三十分しかしてなかったんだなぁ。そういえば」

 思い出し、思わず声に出る。

 しかし、アイさんの手掛かりを探すなら、明るい内の方がいいはず。

 まずはこの神社の周辺を調べて回る事にする。社の下や中、周囲の木の上、葉の間まで細かく調べる。

 しかし、

「全く手掛かり無し、か。これは、カズヤとアイさんは別々の所に転移されたって考えるのが妥当だなぁ」

 結局のところ、そう結論付けるしかなかった。

 カズヤの落胆する顔が頭に浮かぶが、だからといってどうにかなる訳でもない。

 そうして、僕は重い気持ちのまま、いつものトレーニングに取り掛かることにした。



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