異邦人4
シータやユウタ、アキラと話している間はそうでもなかったが、一人になってみるとカズヤから聴いた話がどんどんと頭の中に湧き上がってきた。
繁栄を極めた前文明。その強大さ故に滅びの道を歩む事となり、その文明の崩壊と共に人々はアルドを使う事を忘れてしまった…のだろう。
全く信じられない。そんな話、ある訳ない。
けれども、僕は彼の話が嘘っぱちの作り話ではなく、真実のものだと受け止めていた。
彼が時空転移という、この世界では有り得ない技術を使って現れたからというのも確かにあるかもしれないが、それだけではない。
何かが、僕の中の何かが、カズヤの存在を認めている。出会って間もないというのに、どうしてこの様な気持ちになるのだろう?
もっとカズヤの話を聴きたい。そう高鳴る胸の鼓動を、僕はぐっと堪える。
この胸の高鳴りは、シータがFOLSと関係があるかもしれないと思った時以上のものだ――――
やっと放課後。ついに放課後。
今日最後の授業が終わると同時に、僕は席を立つ。
今日は休み時間毎にカズヤの所に行っていた。授業が終わると同時に席を立ち、次の授業が始まる時間に席に着く。そんな感じだった。
授業をさぼろうかとも考えたが、そこは何とか自分を押さえ今に至る。
という訳で、やっと時間など気にせずにカズヤと話をする事が出来るのだ。
と、いきなり体が後ろに引っ張られ、前のめりに倒れ込みそうになる。
「うわっと」
振り返って見てみると、良く見知った少女が、ちょっと怒った様な表情をして僕の服の裾をつかんで立っていた。
「どうしたんだよミズホ?」
いくらかミズホの気迫に押されるような感じで僕はそう口にした。
返ってきたのは案の定、怒鳴り声だった。
「どうしたんだ、じゃないわよ。それはこっちのセリフ! まったく毎時間毎時間、休み時間になるとすぐにどっか行っちゃうし、放課後になったかと思うと荷物をまとめてすぐに出て行こうとするし、どうしたのよ!」
途切れなく一気にまくしたてるミズホの声は、一層大きくなる。
「シータからの伝言! 例の件で今夜八時に家に来てって!」
例の件? そうか、父親に会わせてくれるというやつか。
それにしても――
「何をそんなに怒ってるんだよ?」
とにかく僕は、ミズホの怒りの理由にさっぱり見当もつかず、そう聞き返すしかない。
けれども、
「怒ってなんかいないわよ! とにかく、私はちゃんと伝えたからね!」
と、答えにならない答えを返すと、ミズホはスタスタと僕の横を通り抜け廊下に出て行ってしまう。おまけに、バンッ! と勢いよく扉を閉める騒音付きで。
「何なんだ、いったい?」
僕はミズホの去っていった先、教室の扉を呆然と見つめながらそう呟く。
気が付くと教室はシーンと静まり返っていて、クラス中の視線が僕へと集中している。
なんだかやな予感がする。そう直感的に感じ取った僕は、すぐさま教室から抜け出そうと一歩足を前に出す。
と、同時に、
「ちょっと待てえ、エン!! 今の話は何だあ!?」
止まっていた時が動き出したかの様に、一斉にクラス中が、正確には男子達が、僕に向かってくる。
「今、コバヤシさんの家がどうとか言ってなかったか?」
「てめえ、いつの間にコバヤシさんに手え出したんだ!」
「今日、コバヤシさんが早退したのもお前のせいか!?」
口々に大声で叫びながら迫ってくる。
しかし、僕がいたのは運良く扉の目の前。
最初の一人が僕の所に来る前に、廊下に逃れ扉をぴしゃりと閉める。
それと同時に、今日休み時間毎にカズヤの元に行くために使っていた能力を再び発動させる。
空間を瞬間的に圧縮する事により、瞬時に別の所に移動することが出来る能力。
といっても、それほど長い距離を移動する事は出来ないし、連続して使用する事が出来る訳でもない。移動範囲はせいぜい二百メートル位。一度使用してからは五分以上の間が必要だ。
五分というと短い様に感じるかもしれないが、一秒、一コンマを争う戦闘の中において、五分という時間は致命的な長さだ。
もちろんこの考えは僕がFOLSに入り、ARUTOと戦うことを前提としたものだが。とりあえず、この能力が余り戦闘向きではないって事である。
僕はこの能力を「スティールシー・ステップス」と名付けた。
今のような場面ではうってつけの能力だと思う。つまり、逃げる時。
扉から出るのと同時に使用する事で、後ろから見れば廊下に出て行っている様に見えるが、実際は廊下に出るのではなく、圧縮された先、今の場合は、カズヤのいる体育倉庫の中に移動するという訳だ。
まあ、休み時間に使っていたのは僕がカズヤの所に行くのを見られないための他に、少しでも長くカズヤと話せる時間を作りたかったという理由もあったのだけれども。
「よう。また来たのか?」
倉庫に着くなりカズヤの声が掛かる。
流石にもう何度も来ている事もあり、僕がいきなり現れた事に対して驚いたりはしない。最初の休み時間に僕が現れた時には、かなり驚いていたんだけどな。
といっても、明るい所から急に暗い所に来た僕には、すぐに彼の表情を見て取る事は出来ないのだけれども。




