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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第三楽章 ε
60/113

接触3

 午後四時、夕方のトレーニングを始める時間だ。

 僕は今、神社に居る。何ていう神社で、どういう由来があるのかは知らないけれども、人が全く来ないという事でこの場所を選んでいる。

 この神社は学校と同じ高台の上にあるのだが、丘を挟んで学校と正反対の場所に位置している。

 僕は林の中を抜けて学校の方から毎日行き来しているのだが、本来のここに通じる道は、細い急な階段がただ一つあるだけだ。

 そんな訳で、人の目を気にせずに思いっきりトレーニングをするにはもってこいの場所なのである。

 四時から七時位までの約三時間、僕は毎日ここで過ごす。

 内容はその日の気分によって違うので、特に何をするかは決めていない。その日何をするかは、ここに来てから考えるのだ。

 今日は気分がいい。それはシータと会う事が出来たから。FOLSと接触する事が出来るから。

 こんなテンションの高い日は、こつこつとやる地味な筋力トレーニングなんかよりも、思いっきり力を出し切れる様なトレーニングがやりたくなる。

 こういう時は――

「さぁてと、始めるか!」

 僕は気合いを入れると、トレーニングへと取り掛かった。


 いつも通りの放課後、のはずだった。

 まさかここでも予想外の出来事が待っているとは。

 トレーニングを始めてから約三十分が過ぎた頃、僕はある違和感を覚えた。

「何だろう、この感じ?」

 トレーニングの手を休め、辺りを見回す。今まで感じた事のない感覚。

 けれどもそれは極小さい、普通にしていたら気が付かなかったであろう感覚。

 精神集中してのトレーニング中だったからこそ気が付いた、否、気にせずにはいられなかったのだ。

「何か、来る!?」

 僕がそう言ったのとほぼ同時、数歩先の空間が揺らめいたかと思ったら、何か黒い物体が現れる。

「えっ、えええっ?」

 立ち上がった僕の視線と同じ位の高さで、それはみるみる内に大きくなる。

まるで、空中に穴が空いてそこから押し出されてくる様にして、人の形が生み出される。

 僕は何が起こっているのか理解出来ず、ただ呆然とその様子を見詰めていた。

「ドサリッ」

 真っ黒なその人影が地面に落ちる音を聞いて、僕はやっと我に返る。

 とりあえず、その人影が動く気配はない。

 それもそのはず、その人影からは全くアルドが感じられなかったのだから。

「だ、大丈夫ですか!?」

 僕はそれに気が付くや否や、人影へと駆け寄っていた。

 近付いて良く見てみると、そこに倒れていたのは二十歳程の男の人であった。

 幸いな事にまだ息はしている。

 これなら、アルドを注ぎ込めば助かるだろう。そう判断した僕は、迷いもせずにすぐさま彼の体に両手を当て、手へと意識を集中させる。

 一瞬、ポーッと手と彼との周りが白く光り、それで終わりだ。彼の体へは生命活動を維持するのに十分な量のアルドが流れ込んでいった。

 しかし、

「ほんの少しの間だけだったとしても、アルドが全く無い状態になったんだから、すぐには動けるようにならないだろうな」

 僕は立ち上がって一息付く。

 咄嗟の事で思わず彼を助けてしまったが、本当にそれで良かったのだろうか?

 彼は一体誰なのか? 否、それ以前に彼はどうやってこの場に現れたのだろうか?

 今の現れ方はまるで――

「時空転移……アストラル・ホール?」

 ふと頭に思い浮かぶ単語「アストラル・ホール」。

 以前、FOLSの中心となる巨大コンピュータの中に侵入した時に目にした単語だ。

 侵入とか、目にしたというのは本当のところは表現としておかしいのだが、まあこの際そんな事は置いておく。

 重要なのは、この「アストラル・ホール」というのはFOLSの敵、ARUTOがこの世界に現れるための出口だという事だ。

 もしこれが、本当にアストラル・ホールだとしたら……。

「彼がARUTOの人間…って事?」

 そう呟いて、僕は頭を横に振る。

「否、それだけで彼がARUTOの人間って決めつけられない。時空転移の技術自体は封印されているけれども、その方法を見つけ出して使う人間がいたっておかしくない。そう考えれば…」

 そう考えれば、彼の状態にも頷ける。

 慣れない時空転移の技術を無理矢理に使ったがために、全てのアルドを使い果たしてしまった…。

「とにかく彼の回復を待つしかないな。意識が戻っても、そうすぐには動けないだろうし、もし何かあったとしたらシータに言えばいい」

 僕はそう判断すると彼の姿を改めて良く見てみる。

 青白くなっている肌を除けば、本当に全身黒尽くめだった。真っ黒な髪に、黒いブーツ。上下共に皮製の黒い服を身につけ、何故か左手にだけ黒い皮手袋。着ている服のデザインは、この世界にもありそうなものである。

 と、いつまでも彼を観察してもしょうがない。とりあえず、彼を休ませる場所へ運ばなくては。


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