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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第三楽章 ε
58/113

接触1


 始業式も終わり、僕は教室へと戻って来ていた。

 担任はホンジョウ先生という昨年と同じ先生なのだが、なかなか姿を現さない。

 やる事もなく、どうやってあの少女を見つけ出すかと考えながら椅子に座っていると、

「いやあ、すまんすまん。遅くなってしまって」

 ホンジョウ先生が教室に入ってくる。

「ちょっとやる事があってな。入ってきて」

 そう、廊下の方を向いて言うと、ホンジョウ先生が入ってきたまま開けっぱなしになっていた入り口から一人の少女が入って来る。

 そして、その姿を目にしたとたん、

「あっ!」

 声が出た。否、出さずにはいられなかった。

 何故ならば、入ってきた少女は、朝のFOLSの少女だったからである。

 少女の方も驚いたような表情を浮かべる。

「どうしたエン、知り合いか?」

 ホンジョウ先生がすかさず聞いてくる。

「え、あ、その――朝ちょっと見かけたんで」

 咄嗟に出てしまった声に、僕は慌てて言い訳を考える。

 まさか、FOLSの少女がいきなり現れたから、などとは言う事は出来ない。

「ほーう」

 ホンジョウ先生は、何故か一瞬ニヤッとした表情を浮かべた。

「急な話だったんでクラス発表の時はまだ名簿に載ってなかったんだが、彼女も君達と今日から共に学ぶ事になった」

 その言葉に続いて、少女は頭を下げる。

「あの、父の仕事の都合で引っ越してきたシータ=コバヤシです。よろしくお願いします」

 そう言って浮かべた彼女の笑顔は、男なら誰でも見とれてしまうようなものであった。

 他の男子達はヒューヒューと口笛を吹いたり、よろしくー! と言ってみたり。

 まあ、納得のいく反応といったら納得のいく反応ではある。初めて彼女の顔を目にした時、僕も見とれてしまっていたのだから。

 けれども今の僕としては、彼女の正体の方が気になる。彼女が本当にFOLSの一員だとしたら、これがFOLSに近付くための千載一遇のチャンスかも知れないのだから。

「おいおい落ち着け、お前ら」

 あまりにも教室が騒がしくなったせいか、ホンジョウ先生はそう言って静める。

「気持ちが分からんでもないが、後は休み時間に個人的に彼女の所に行くんだな。と、それでだコバヤシ、お前の席は一番後ろの…エンの隣だ。さっき話してたやつの事だ。分かるだろ?」

 なるほど、確かに僕の右隣には机や椅子はあるのに誰も座っていない。

「なんでだよ先生!」

「どうしてエンばっか!」

 すぐに抗議の声が上がる。

「そう言われても名簿順だとそうなるんだ。まっ、席替えまで待つんだな。それじゃあコバヤシ、席に」

 先生に言われ、コバヤシさんはゆっくりと歩き出し、僕の隣の席へと着いた。

 その間、彼女はなるべく僕と目を合わさない様にしていたと感じたのは、僕の気のせいだろうか…。


 放課後、僕は未だにコバヤシさんと一言も喋れないでいた。

 何故なら、休み時間毎にクラス内外問わず、男子がどっと集まって来るからだ。なんともすごい人気である。

 転校生というだけで少しは気になる存在なのだが、それに加えて彼女は学校の中では比べられる人が居ない程の美人。こうなるのは必然といえば必然ではある。

 流石にこんな中で、FOLSの話をする訳にはいかないだろう。さて、なんとか彼女と二人きりで話せないかな。

 そう思って横の人集りを見ていると、聞き慣れた声が掛けられる。

「よう、エン。何してんだ?」

 そう言って来たのは友人のユウタ=イガラシである。その横には、同じく一年の時からの友人のアキラ=ササキもいる。

「ユウタか。何してるって、何もしてないよ」

 そう答えると、

「そうかぁ? 何か、横をじっと見てなかったか? 転校生をよ」

 アキラがニヤニヤしてそう言ってくる。

「話し掛けたくても話し掛けらんないってか?」

「ま、彼女美人だからな。お前が見とれるのも無理はないよ」

 ユウタとアキラの言葉に僕は慌てて答える。

「そんなんじゃないって。別に見とれてたって訳じゃあ…」

 言い返しながらも、初めて見た時の事を思い出して語尾は歯切れ悪くなる。

 ユウタには年上の彼女がいるし、アキラは恋愛よりも趣味の人。どうやら二人はコバヤシさんにはあまり関心はない様子。

「またまた、照れなくたって良いじゃないの。オレとお前の仲だろ」

「そうそう。それに朝だって彼女が教室に入ってきた途端にあっ、とか叫んじゃって」

 二人は全く僕の言葉を信じていない様子。

「あれは本当に朝、学校に来るときに会ってそれで――」

「そん時にいいなあ、とか思ったんだろ」

「それがいきなり出てきたからびっくりって事だろ?」

 二人は僕が最後まで話す前に、勝手に話を進めていく。

「もういいよ、そういう事にしといて」

 何だか自分で言っててバカバカしくなってきたので、そう答える。

 すると、

「何だよ、つまんねえな」

「僕にはミズホがいる! とかなんとか言わねえの?」

 結局のところ、こいつらは僕とミズホの事をからかいたかったらしい。

 全く思い至らなかったな、それは。

「そこでなんでミズホが出てくるのか意味不明なんだけど」

 その言葉に二人は顔を見合わせると「はぁ~」とそろってため息を漏らす。

「と、それより、オレら帰るけど一緒に帰らねえか?」

 一拍置いて、アキラが思い出した様に聞いてきた。

「元々、そのために話しかけたんだったな」

 とユウタ。

「えっ、あ、…ごめん。僕、ちょっとする事があるから」

 少し迷ったが、結局その申し出は断る事にした。コバヤシさんにFOLSの事を確かめたい、という気持ちの方が強かったのだ。

「そうか、じゃあまた明日」

「じゃね!」

 そう言うと、それまでのしつこい会話は何だったのかという程あっさりと、二人は手を振って教室を出て行く。

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