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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第三楽章 ε
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夢への道程3


「キーン、カーン、カーン、コーン」

 僕達が学校の門を潜ると同時に鐘の音が鳴り響く。

 隣のミズホは、ぜえぜえと荒い息遣いをしている。いつもなら途中で休みを取る坂道を、ずっと走り続けたのだから当たり前といったら当たり前か。

 とは言うものの、僕の息は全く乱れていない。日頃のトレーニングの賜である。

「あんた…つ、疲れて…ない…の?」

 とぎれとぎれにそう口にするミズホ。まだ話すのもやっとの様子。

 僕が全く疲れていないのを見て不思議に思ったのだろう。何しろ、僕の事は運動音痴だと思っているのだから。

「何、無視してんのよ!」

 僕が何も言わずに歩いて行こうとすると、ミズホは横に並んでそう言った。

「ミズホが言ったんだろ、学校じゃあまり話し掛けるなって」

 僕は少しむっとして答える。

 以前、友達が僕とミズホの仲をからかった事があったのだが、その時にミズホは、学校では話しかけないでよ、みたいな事を言ったのだ。

 それ以来、僕は学校ではミズホになるべく話しかけないようにしている。

 実際、ミズホとの仲を勘違いして因縁を付けてくる男の数が減ったので、利にかなっている。

 という訳で、僕はそのまま一人で教室へと向かった。


 始業式の間中、僕は考えていた。朝の少女は何者なんだろうか、と。

 彼女が持っていたのは、僕の記憶が確かならば、FOLSの隊員章のはず。

 「FOLS」というのは世間で知られている限りでは、警察の手に負えない難事件を解決するために組織された特殊組織、という事になっている。

 でも、実際には違う。

 FOLSはARUTOという、とある組織と戦うための組織なのだ。

 この辺は詳しくは分からないのだが、ARUTOは、今では封印された事になっている時空転移の技術を使い、異世界からやって来る。そして、奴らは常人のそれを遥かに越えたアルドを持っていて、その力によりこの世界を破壊していくのだ。

 それに対抗するために、高いアルドを持つ者達を集めFOLSが結成された。封印された時空転移の技術を使う事の許された唯一の組織として。

 では何故僕は、こんなにもFOLSについて知っているのか。封印された技術を使えるという事実を、本来民間人が知っていてはいけないはずなのに。


 あれは確か、僕がまだ小学校の一年生の時だった。

 夏休み、家族でキャンプに出掛けた。ところが、僕は夢中になって遊んでいる内にテントから、つまり両親から離れて、森の中に迷い込んでしまったのだ。

 一時間以上は彷徨い歩いただろうか。心細くて、お腹が減って、ついには涙も出ない程に疲れ果てた僕は一歩も歩けなくなってしまった。

 辺りはどんどんと暗くなっていき、普段は何とも感じない鳥の鳴き声や木の葉のざわめきが、不気味な音となって聞こえてくる。

 そんな時、現れたのが彼だった。

 その姿をはっきりとは覚えていない。だが、二十歳位の若い男の人だったのは覚えている。

 最初に彼を見た時、僕は悲鳴を上げて気絶してしまいそうになった。何せ、彼は傷だらけだったのだから。

「なんだ坊主、こんな所で何をしてるんだ? 迷子か?」

 彼は優しく僕の頭を撫で、体を持ち上げる。

「そう怖がるなって。これでもちゃんとした人間だぜ」

 そう言ったのは、僕が彼の腕を、機械の腕を目にしたからだろう。

「ロボットじゃないの?」

 僕の言葉に、彼は苦笑いを浮かべ答える。

「違う。これはただの義手さ。つまり、本物の手が無くなってしまったから、その代わりの腕だって事だよ」

「手が取れちゃったの? 痛くないの? 体中傷だらけだよ」

「ハハハ、痛くないよ」

 そう言って彼は話し出した。彼が何故そんな怪我をしているのかを。

 彼はFOLSっていう正義の味方の一人で、今さっき、ARUTOっていう悪い奴らを倒してきたところだ、と。

 それで、FOLSって? ARUTOって? と質問をしたら、さっきの様な事を、小学生にも分かる様に噛み砕いた言い方で答えてくれたのだ。

 彼に連れられてしばらく歩くと、両親のいるテントが見つかった。

 そこで彼は言った。

「ここまで来れば大丈夫だよな。後は自分で戻れよ。それと、オレの事は誰にも言っちゃあ駄目だぞ。お父さんにも、お母さんにもだ」

「どうして?」

 僕が問い返すと、

「正義の味方ってのはな、皆に正体を隠して世界の平和を守るものなんだぜ」

 と、にやりと口の端を上げて答えてくれる。

 僕が分かったと頷くと、彼は笑みを浮かべて、

「じゃあまたな、坊主!」

 と、森の中へと消えて行ってしまった。

 それ以来、僕はFOLSに興味を持つようになり、色々と調べたり、体を鍛えたりする様になったのだ。鍛えているという事を隠しているのも、彼の言葉に依るところが大きい。


 話を戻そう。あの少女は誰なのか、だ。

 一番簡単なのは、彼女がFOLSの隊員の一人だという事。他にも考えられる事があるのかも知れないが、そんな可能性ははっきり言って無いに等しい。

 となると、何故そのFOLSがこんな所に、この学校の制服を着て居たのか、だ。

 もしかしたらARUTOが近くにいるのかも。ただ単に、FOLSの一員の高校生なのかもしれない。いや、やっぱり……。

 結局、その答えは考えて分かるものじゃない。

 彼女はこの学校の制服を着ていて、この学校に向かって走って行ったのだから学校内にいるはずである。だったら、探し出して直接本人と話をしてみれば良いじゃないか。

 結局その結論に至った。

 もしかしたら、これがFOLSに入るためのきっかけになるかもしれない…。


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