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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第三楽章 ε
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夢への道程2

「まったく、新学期早々遅刻寸前で行くことになるなんて」

 家を出るとミズホはすぐにそう口を開く。

「だったら先に行ってればいいじゃないか!」

 僕は走りながら、その言葉にむっとして返す。

「そんな事してたらあんたいつも遅刻じゃない!」

 もちろんミズホも走っている。本当に遅刻しそうなのだから。

 家から学校までは走ると約五分。と言っても、走り続ければの話だが。

 大抵は途中で歩く事になる。何故ならば、僕達の通う高校、「東ココノエ高校」は高台の上に建っているからだ。つまり、ずっと上り坂だという事だ。

 僕は別にずっと走り続ける事は可能だ。いくら色々着けているといっても、体力だけはあるからだ。

 瞬発力などは落ちているかも知れないが、毎日のトレーニングに比べたらこれ位どうって事はない。

 けれども、ミズホの方はそうもいかない。そのため、歩く事になるのだ。

 始業まで約十分。歩く事を考えると大体七、八分といったところ。まあ間に合う範囲内だ。


 僕の名前はエン=スガムラ。今日から東ココノエ高校の二年生となる。

 周りには運動音痴で鈍臭い奴って事になっているが、真実の程は、前述の通り。

 重い服を身に付けたままで授業を受けているし、わざわざ運動で目立つ必要も無いので、現状に不満は無い。

 そして、僕とは逆に、隣を走っているミズホはスポーツ万能で人当たりも良い。おまけに顔も良いと、男にも女にも人気が高い。

 僕に言わせると、何であいつがもてるのか、と思うのだが、幼馴染みだという事で親しい僕に変な因縁を付けてくる奴もいる。

 その場合は適当にあしらったり、何とか逃げ出したりして事無きを得ている。 変な所で悪目立ちしないように、気を使っているのだ。

 そんな訳で、何時まで経っても僕は鈍くさい奴のままで通っている。


 しばらく走り続けていると、学校前の最後の登りへと入る十字路が見えてくる。

 そのまま、僕は速度を緩めず走り続けて行く。

 すると、

「うわあっ!」

「きゃっ」

 何かとぶつかる。

 額に鈍い痛みが走り、地面に倒れ込んでしまう。

 見ると、僕と同じように尻餅を付いている少女が目に入る。髪の長い少女。

 どうやら彼女と衝突してしまったようだ。

「いつつつつ。大丈夫?」

 額を押さえつつ立ち上がると、目の前の少女に声を掛ける。

「えっ、あ、はい」

 少女は下を向いたまま痛みを堪えている様子。

 ぶつかったのは額同士の様だが、少女は倒れた拍子に腰を地面に打ち付けたようで、腰に手を当てている。

「ごめん、急いでたから。立てる?」

 屈み込んで少女に手を差し伸べる。

 と、彼女は顔を上げ、

「あっ、すみません。私の方も前を良く見ていなかったから」

 心臓がドキリッと鳴るのを感じた。

 少女の顔を見た途端、僕は動くのを忘れてしまっていた。

 少女は、今まで見た事のある女性の中で一番綺麗だった。純白の肌に整った顔立ち。漆黒の艶やかな髪。

 全てが僕を吸い寄せている様で、その長い睫毛に囲まれた大きな黒い瞳が、僕の目を捉えて離さない。

「ど、どうかしました?」

 少女のその言葉に僕は我を取り戻す。

「あ、ごめん。見とれ――じゃなくて、えっと…」

 言うべき言葉が見つからず、僕は訳の分からない事を口走ってしまう。

「と、とりあえず、掴まって」

 何とかそう言う事に成功し、少女の腕を掴んでゆっくりと引き上げる。

 立ち上がった少女は、服に付いた砂を手で払うと、

「ありがとうございます」

 深々と頭を下げる。と、その拍子に何か手帳の様な物が地面に落ちる。

 僕はすぐに手を伸ばしてそれを拾い上げる。

 そして、そこに描かれていた絵に、先程とはまた違った意味で僕は目を奪われる。

 そこに描かれていたF・O・L・Sの四文字が組み合わさって構成されている紋章は明らかに――

「すっ、すみません。あの、私、急いでるんで!」

 僕が口を開くよりも早く、少女は僕の手から手帳を奪い取っていく。否、元々彼女の物なのだから奪うという表現はおかしいか。

 一目散に走り去っていく彼女。もしかしたら見間違えかも知れないと一瞬思ったが、あの反応…これは間違いないのではないか?

 僕は確信し、小さくなっていく彼女の後ろ姿を見つめる。と、

「ちょっと、何ぼけっと突っ立ってるの!? 遅刻するわよ!」

 ミズホが怒鳴り声と共に僕の横を走り抜けて行く。

「あ、そうだよ!」

 今の出来事のお陰で、遅刻しそうな事はどこかへぽーんと置き去りになってしまっていた。

 僕もミズホの後に続いて走り出す。

「まったく、遅刻したらあんたのせいだからね!」

 ミズホは大声でそう叫んだ。


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