夢への道程1
一日目
ぱちっと目を開け、続いてがばっとベッドから起き上がる。
枕元に置いてある時計を見るとジャスト五時。いつも通りの時間である。
「う~~~ん!」
腕を上げて大きく伸びをする。
あたりはまだ薄暗いが、僕はもう完全に目が覚めていてじっとしていられない気分。
「さてと、それじゃあ今日も元気良く行きますか!」
独り呟くと服を着替え始める。寝間着を脱ぎ、ジャージに着替えるのだ。
手早く着替えを済ませると、ベッドの下から靴を取り出す。そして窓を開けると、そこから外へこっそりと抜け出す。
何故こっそりかと言うと、僕の部屋は二階にあり、下の階ではまだ両親がぐっすりと眠っている最中だからである。
屋根の上を、音を立てない様に体をなるべく低くして歩く。そして塀の上に降りると、そこから道路に飛び降りる。
もう慣れた事なので、そこまでは五分とかからない。何せ、毎日やっている事なんだから。このまま僕は、一時間程度ジョギングをしてくる予定だ。
という風に、いつもと変わらない僕の一日が始まる。
六時十分。僕は自分の部屋へと戻る。これまたこっそりと。
今度は筋トレである。腕立て、腹筋、背筋など、その他諸々、全身の筋肉を鍛える。
重要なのは、これも音を立てないように静かにやる、という事だ。
やってみると分かると思うが、これが結構大変なのだ。かなり集中してやらなければいけない。特に、後の方になればなる程だ。
これは慣れたといっても気が抜けない。
七時十五分。これ位になると、そろそろ下の方が騒がしくなってくる。両親が起き出すのだ。
この辺で僕は朝食を済ます。といっても、下に降りていって母親の用意した御飯を食べるという訳じゃあない。ジョギングの途中で買ってきておいたパンなんかを食べるのだ。なにせ、僕はまだ寝てる事になっているんだから。
七時三十分。朝のトレーニングはここからが大詰め。
最後に、アルドを鍛える…というのは何か言い方がおかしいような気がするが、他にこれといった言い方を知らないので、まあそんな感じで良いだろう。
これを最後にやるという理由は、体自体は動かさないから汗をかかないというのもあるけれども、重要なのは母親が、
「早く起きなさーい!」
と、階下から何度も呼ぶ事にある。
アルドの鍛錬は、とにかく集中。これに尽きる。
体中の、否、周囲全てのアルドの流れを感じ、自然のアルドの中に自分のアルドを溶け込ませる。また、全身のアルドを集中させ、一点に留めておく。
実際の所、これが一番疲れる。「慣れ」だけじゃあどうにもならないものが、そこにはあるからだ。
そんな訳で、僕は終了の合図が聞こえるまでベッドの上に足を組んで座っているのだが――
「おはようございまーすっ!」
七時五十五分。いつもより少し遅く、終了の合図が告げられる。
「さてと」
僕は急いで寝間着に着替え、ベッドに横になると布団を頭まで被る。
と、階段を誰かが上がってくる音が、調子よくトントントントンッと聞こえてきたかと思うと、バタンッと凄い勢いで部屋の扉が開け放たれる。
「エン! 今何時だと思ってんのよ!」
大きな怒鳴り声と共に布団が剥ぎ取られる。
「わわっ!」
僕は驚いた様にして、ベッドから飛び起きる。
目の前には一人の少女。僕の通っている東ココノエ高校の制服を身につけた彼女の名前はミズホ=イスルギ。同い年の幼馴染みだ。
「なんだ、ミズホかあ」
僕はわざと寝ぼけているような声を出す。
そうするとミズホの反応は、
「何だ、じゃないわよ! 今何時だと思ってるのよ!」
と怒気の増した声を上げ、目覚まし時計を投げ付けてくる、という事になる。
「いったいなあ。何する……!」
時計を目にすると、わざとらしく驚きの表情を作る。あくまでもフリだ。
「もう八時じゃないか!」
「だから言ったでしょ! ほら制服!」
僕が叫ぶと、すぐにミズホはクローゼットから取り出した僕の制服を投げてくる。
「早くしなさいよ!」
睨み付けるようにしてそう言うと、ミズホは部屋を出て行く。
幼馴染みといっても年頃の男女だ。流石に着替えを見ているつもりはないらしい。
僕は扉が完全に閉まるのを確かめると、急いで支度に取りかかる。
ただ制服に着替えれば良いってもんじゃない。制服の下には十キロ以上ある鉄の織り込まれたシャツ。両腕にはそれぞれ数キロのリストバンドをはめる。
この辺は、その日その日の調子に合わせて変更できるように何種類か重さを用意してある。
ちなみに、トレーニングの時のジャージや靴も特別仕様のものである。
制服を着た後、これはトレーニングの時も身に付けていた物だが、首に掛けている『お守り』が、きちんと有る事を最後に確認する。
そして、部屋を飛び出す。階段を駆け下りて行くとそこには母親とミズホの姿が。
ミズホは僕の姿を確認すると玄関から出て行く。
僕は母親の横を通り抜ける時に、
「いってきまーす!」
と言って、ミズホの後に続いた。




