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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第二楽章 θ
54/113

檻の内で3

――――よっ、私! 元気かね?――――


 何処かから声が聞こえて来る。

「誰? 私って…?」

 私がそう問いかけると、急に目の前に人影が現れる。

 長い金髪をなびかせて、優雅に微笑んでいる。

「ふふっ、そろそろお目覚めの時間よ。ゆっくり休めたかしら」

 問いには答えずに、一方的に話し掛けて来る金髪の彼女。

「目覚め? 私…寝て…?」

 そこで、私は理解する。これは夢なのだと。

 目の前に居るのは理想の私。憧れの人物像。美人で明るくて快活で、人の言う事なんて気にせずに我が道を行く。そんな、現実の私とは全く正反対の眩しい彼女。

「ほらほら、いつまでもぼーっとしてないでシャキっとする!」

「五月蝿い……私は、貴方とは…貴方とは違うのよ!」

 私は大声で怒鳴り返していた。

 私だって、好きでこんな風に生きている訳じゃない。自信が無くて、勇気が無くて、何も出来なくて、居場所が無くて…。

 与えられたこの居場所を守るために、FOLSでの任務を一生懸命やってきた。FOLSだけが、私の唯一の居場所だから。

 金髪の少女は、呆れた様な、それでいて悲しそうな表情を浮かべ、

「ホント、しょうがない子ね。だからこそ、可愛くてしょうがないんだけど」

 そう言って、私の顔へと両手を伸ばして来る。

「な、何よ?」

 身構えるが、その両手は優しく私の両頬に添えられる。

「大丈夫よ。あなたはちゃんと皆に愛されてる。私はもちろんだけど、お父さんにもお母さんにも。FOLSの人達にもね。だから、安心して戻りなさい」

 じっと私の顔を見つめてくるその表情は、優しい微笑みに包まれている。

「な、何を言っているのか…分からないわ」

「怯えないで。人は怖くないから。ミズホもエン君も、あなたにとってかけがえのない存在になるから。大切にしなさい」

「…分から…ないわ…」

「恋も友情もまだまだこれからよ。頑張りなさい!」

 バチンっと両の頬を叩かれる。すると、急に視界が白くかすんでくる。

――え、あ、ちょっと?!――

 声を出そうとしたが、それはもう発する事は出来なかった。

 どんどん薄くなって来る周囲。


――――さあ、私! いってらっしゃい――――


最後に、そんな言葉が聞こえた様な気がした。



「あっ、気が付いたみたいだよ」

 まず、意識の中へと入ってきたのはその声だった。

 次に目の前が段々とはっきりとしてきて、私の顔を覗き込むようにしている少年の顔が目の前に現れる。

「う…。わ、私は…?」

 横になっていた体の上体だけ起こすと私は辺りを見回す。辺りには煙が立ちこめ、焦げ臭い臭いが鼻をつく。

「奴らはもう倒したよ」

 目の前の少年、エンの言葉に私は記憶を取り戻す。

「そうだ! 確かARUTOの二人組が…」

「だからもう片付いたんだよ」

 その声は私の背後からだ。

 そこに立っていたのはエンと知り合いらしい、例の最初の男だ。

「二人が、倒したんですか?」

 二人の服はボロボロに破けていて、赤黒く染まっている所もある。けれども、不思議な事に全く傷跡は見られない。

「ははは、まあ、そういう事にしておいてよ」

 エンは、何故かは分からないが、顔を引きつらせてそう言った。

「全く信じらんねえぜ」

 ぼそりと後ろの男が呟くのが聞こえる。一体どういう意味なのだろう? 自分達がARUTOを倒せた事が、奇跡的な事だったという事なんだろうか?

「とにかく外に出よう。シータの仲間が外にはいるはずだから」

 エンがそう言って立ち上がる。

「お前、まだ動けねえんだろ? オレの背中に乗りな」

「えっ、そんな」

 私はそう言って断ろうとしたが、半ば無理矢理に男に担ぎ上げられる。と言っても、本当に体が動かないんだからどうしようもない。

 エンと男は並んで体育館の入り口へと向かう。

「そういや、まだ名前を言ってなかったな。オレはカズヤ」

 男は私を担いでいるというのに、全く辛そうな声を出さずにそう言ってきた。

「えと、シータです」

 私は普通に答えたつもりだ。けれども、返ってきたのは奇妙な反応。

「ほんとに違うんだな」

 まるで呆れているかのような口調。何故そう返してくるのか、理解出来ない。

「まあまあ、良いじゃないか。シータも困ってるよ」

 エンがカズヤの左肩をポンッと叩く。

「僕としては、そのアームってやつの方が驚きだったけどね」

 アーム? 何なのだろう、それは?

 と、もう目の前には体育館の扉が。

「ガラガラガラッ」

 エンが扉を開ける。

 すると、数メートル先に三つの人影がある事に気付く。

 私は何とか頭を動かしてその姿を確かめようとする。けれども、首すら動かす事が出来ない。

「ミズホ?」

 と、エンが呟く。

 続いてカズヤの体が震え、呟き声が耳へと入ってくる。

「ガル…デルム? それに、その隣にいるのはもしかして――!」



  θ end.


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