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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第二楽章 θ
53/113

檻の内で2

「エンか?」

 体育倉庫の中からエンの名を呼ぶ男の声が聞こえて来る。

「うん、なんかちょっとばれそうだったからさ」

 エンはその声に答える。エンは声の主と知り合いだという事なのだろうか?

 けれども、扉が開かれた今、はっきりと分かる。あの異質なアルドの主は、倉庫の中の男だという事が。

「誰かいるのか?」

 と、中の男。

 それにエンが答える。

「あ、うん。友達がね。って、もう立てるの?」

「ああ、問題ない。もう体力も回復したしな」

 そう言って、体育倉庫の中から男は姿を現す。

 真っ黒な髪に、同じく上下共に真っ黒な服。隣に並んでいるエンが白っぽいジャージを着ているせいか、その男の『黒』というイメージが際立って見えた。

 ぱっと見では二十歳前後だろうか。均整のとれた体つきをして、そうとう鍛え込んでいる様に見える。

 身長はエンよりずっと高いが、エンの身長が低めなので、余計に高く見えるのかもしれない。

 エンと男はその後、二言三言言葉を交わしたが、小さい声なので聞き取る事が出来なかった。

 と、男をその場に残してエンは再び私の方へと戻って来る。

「シータ、彼はARUTOの人間じゃないから心配しなくて大丈夫だよ」

「えっ、あ、そうなんだ……」

 そう答えた後、気付く。エンの言い方は、まるで私がFOLSの仕事でここに来た事を知っていたかのような言い方だという事に。

 慌ててエンの顔を見ると、

「言ったでしょ? 僕はある事件でFOLSの事を知ったって。その敵が、ARUTOだって事も知っている」

 ただ驚くしかない。

 私は一体どうしたらいいのか、さっぱり思い浮かばなかった。

 ただ、一つだけ確かな事がある。エンは、私が思っていたよりもずっと多くFOLSについて知っているという事だ。

 その時、

「!?」

「こ、これは?」

 ズシーンと重い物が圧し掛かって来るような感じ。続けて、ぞわっとした感覚が背筋を駈け上る。

「そ、そんな! こんな事って…?」

 言われなくても分かった。これが異質なアルドを感じたからだという事は。

 今まで感じた事のないこの不快な感覚…。周囲のアルドの調和が乱れ、重苦しい空気が辺りを包み込む。

 そして、私達は目撃する。体育館の真ん中、丁度私とエンの二人と例の黒い男の間に、新たな二人の男が現れるのを。

「おいエン! これは一体どういう――」

「カズヤ! 避けろ!」

 エンの叫びと目の前が真っ白になるのはほぼ同時だった。

 太陽の如き閃光が体育館を飲み込み、そして、

「ドーンッ」

 大きな、まるで大砲の砲撃音の様な音が鳴り響く。その音が、黒い男が壁に激突した音だと分かったのは、数秒経った後だった。

「カ、カズヤ?」

 横のエンもその事実に気が付いた様で、すぐに男の元に駆け寄ろうとする。

 ところが、足を一歩前に踏み出した所でその動きは止まる。否、それ以上前に進めなかったというのが正しい表現なのだろう。突然現れた二人の内の一人がこちらを睨み付けた、ただそれだけだというのに。

 睨みつけた男が口を開く。

「なかなか面白い場面に出てきたみたいですね」

 その言葉にもう一人の男、先ほどの光の主もこちらを振り向き、

「そのようだ。あの男、オレの一撃を食らってもまだ息がある様だ。面白い」

 ぺろりっと舌舐めずりをする。

 二人とも同じ白服を身に付けている。そしてそこには『ARUTO』の五文字が。

 気が付くと、いつの間にかエンが私のすぐ横にまで後退して来ている。

「シータ、クシイさんに連絡するんだ。ヤツら二人相手じゃ、いくらなんでも分が悪すぎる」

 耳元で囁く。

 そう言われればそうだ。今の最優先事項といったらそれしかない。

 エンはもう全て分かっている様子だし…否、分かっていないとしても、もう私の正体を隠している様な状況ではない。

 そう判断した私は通信機をすぐに取り出す。

「クシイ! クシイ! こちらシータです!」

「こちらファイ、どうぞ」

 返ってきたのはクシイよりも若い男の声。クシイと共にここに向かっているというファイだ。

 どっちが出ようと問題はないので、私はそのまま続けて話す。

「報告です! 現在、ARUTOと思われる二人組の攻撃を受けています! 周囲には民間人、エン=スガムラともう1人、二十歳位の男がいます!」

 とそこまで話した所で、いきなり通信機にザーッというノイズが流れ、向こうの声が聞こえなくなる。

「ファイ、ファイ! どうしたんですか? 応答してください!」

「無駄だよ」

 そう答えたのはARUTOの手前の方の男だ。

 色素の薄い青白い肌に銀色の髪。その中で煌々と輝く赤い瞳が私を射抜き、全身が鳥肌立つのを感じる。

「この建物の周りにズスフィールドを張った。これでもう外とは、通信はもちろん、行き来もできない。ズスフィールド位知ってるだろう? FOLSのお嬢さん?」

 男が言い終わるや否や、電撃の様なものが体を駆け抜ける。

 次の瞬間、私の体は宙を舞い、背中から床に叩きつけられる。

「シータ!」

 エンの叫びが大きく木霊する。

「シータ、しっかり!」

 体が揺さ振られているような感じがするが、何が起きているのか…身体の感覚がはっきりしない。

 視界も……ぼんやりと霞んでいて定まらない。

 そして――――カチッと何かスイッチが切り替わるような音が聞こえ、私は暗闇の中へと沈んでいった――――


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