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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第二楽章 θ
52/113

檻の内で1

三日目


「ピピッ、ピピッ、ピピッ!」

「んっ、う~ん……」

 けたたましく鳴り響くアラーム音。

 私は寝ぼけ眼で枕元に手を伸ばし、目覚ましのスイッチを強く押す、押す、押す……。

「ピピッ、ピピッ、ピピッ!」

 けれども、アラーム音は消えるどころかむしろ逆に大きくなっていく。

 そして、そこで気が付く。目覚まし時計の音とは違う!

 ベッドから飛び起きると、机の上に置いてある通信機を引っ掴む。

「は、はい。シータです」

「すまないな、こんな朝早くに」

 聞こえてきたのは、聞き覚えのある太い男の声。

「クシイ? 何かあったのですか?」

 クシイの声は別に、慌てているというものではなかった。

 けれども、朝早くに連絡してくるという事は急ぎの用事であるのは間違いない。 時計へと視線を動かすと、その針はまだ午前五時前を指している。

「昨日の件、例の異質なアルドの件だが、今度は確実に機械に引っかかった。微弱だが、先程からずっと記録され続けている。誰か別の世界から来た者がいるのは確かだ」

 私はごくりと唾を飲み込み、クシイの次の言葉を待つ。

「そこで、至急シータに調査に行ってもらいたいのだ。空間移動は、使うと相手に悟られる危険性があるから使えない。だから、私はファイと共に車でそっちに向かっている最中なのだが、到着までまだ少し時間がかかる。一番近くにいるシータに先に行って様子を探ってもらいたいんだが…」

 なるほど、通信機越しに車のエンジン音が聞こえてくる。

「分かりました。詳しい場所は?」

「昨日の地点からは少し移動しているのだが、学校の敷地内だ。学校の体育館。その辺りから反応が出ている」

「了解しました」

「気を付けてくれ。私達も出来るだけ早く駆けつける。それまでは、くれぐれも一人で無理はするな」

 通信が終わるとすぐに支度に取りかかる。そうして、ものの五分も経たない内に私は支度を終え、家を出る。

 外はまだ薄暗く、人通りは全くない。周りから不審に思われない様に一応制服を着て出てきたが、どうやら取り越し苦労に終わりそうだ。

 走りはしないが早足で学校へと向かう。

 今はまだ四月の始め。朝の風は冷たく頬を刺す。

 空を見上げると、雲が風に流されていくのが目に入る。嵐の前の静けさ、とでもいうかのような天候だ。

 まるでこれから何か不吉な事でも起こるかのよ様な、そんな気がするのは私が緊張しているからだろうか?


 あれこれと事態を想定し、どのように動くかを考えながら歩いている内に、私は校門の前に立っていた。もちろん門はまだ閉まっている。

 周囲の様子を慎重に探りながら私は門を乗り越える。今のところ人の気配は全くない。

 私は歩を緩め、一歩一歩ゆっくりと体育館へと近付いて行く。

「ガララッ」

 体育館の扉は難なく開いた。この学校の鍵は基本的にアルド認知型の物なので、私達FOLSにかかれば簡単に開ける事が出来るのだ。

 普段ならば脱ぐはずの靴を履いたまま、私は中へと入る。

 しーんと静まり返っていて、少なくとも見える範囲には誰も居ない。

 気配をじっと押し殺して物陰に隠れている、何て事も考えられるので、私は意識を集中させ、かすかなアルドの流れの乱れもないか調べる。

 何分経っただろうか、私はついに体育倉庫の方に微弱ながらも奇妙なアルドの流れが感じられることに気が付く。

 覚悟を決め、ごくりと唾を飲み込み、体育倉庫の方に向かって一歩を踏み出そうとしたその時、

「待って、シータ!」

 背後から突然声が掛けられる。

 全く予期していなかった出来事に、私はびくりとし、瞬時に声の方向を振り返っていた。

「エン君!?」

 そこに立っていたのは昨日目にしたのと全く同じ格好、つまりジャージ姿のエンだった。

「ど、どうして、あなたがここに…?」

 私は自分の目が信じられなかった。だって、全く感じなかったのだ。そこに人がいる、何て事は。いくらエンのアルドが低いといっても、さっきの様に集中した私が気付かないなんて有り得ないのだ。

 そう、今の今までエンのアルドは全く感じられなかった。それなのに、そこには紛れもないエンの姿が。

 どんなに気配を隠していたって、アルドを全て隠し尽くす事は出来ないはずなのに……。

「それはこっちのセリフだよ。僕は、朝のジョギングをしていたらシータの姿が見えたからここまで追ってきたんだ。だって、こんな朝早くに学校行くのって変だろ?」

 私は声が出なかった。なんて言ったら良いのか分からなかったのだ。

 すると、エンは私の内心の動揺を悟ったのか、

「人を捜しているんでしょ? だったら僕に付いて来て」

 と、私の横を通り抜け、体育館の奥へと進んで行く。

「ま、待って! 中は危――」

「危険は無いよ。安心して」

 私の言葉を予想していたかの様に、エンは振り返ると笑顔でそう言った。

 私はもう何が起こっているのか分からなくなり、その場を動けずにいた。

 エンが歩いていく先は、私が行こうとした場所と同じ。体育倉庫だ。

「ガラガラッ」

 倉庫の扉が音を立てて開かれる。


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