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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第二楽章 θ
48/113

彼の力になりたくて1

 学校と家との距離は十分許容範囲内だ。目をつぶり、次に目を開くとそこは既に自宅の玄関である。

 足元を見ると、そこには黒い革靴が一足揃えて置かれている。もちろん私の物ではない。

 靴を脱いで中へと進むと、入ってすぐのリビングに人の姿を見つける。

 声を掛けようと口を開くと、

「意外と早かったな、シータ」

 私の方に背を向けてソファーに腰掛けていたはずのその男は、私が声を出すよりも早くそう言って、ゆっくりと立ち上がってこちらを向いた。

「クシイ、あなたが……という事は!?」

「そういう事だ」

 私は口髭をたくわえたそのクシイの顔を認めると共に、事の重大さを知る。

基本的に私達FOLSは、隊員毎に別々の任務が与えられている。私が適正者のスカウトやその他雑務いう任務なのに対して、クシイはFOLSの本質とも言える任務に就いている。

 つまり、『ARUTOの撃退』がクシイに課せられた任務だ。

 ARUTOについては、私は余り良く知らないのだが、私たちFOLSと同じく高いアルドを持った者達によって構成されている組織だ。

 私は今までその姿を直接見た事は無いのだが、映像などでその能力の高さは了解済みだ。

「ARUTOが…?」

 私は恐る恐る口を開く。

「今はまだ、はっきりと断言する事が出来ないが…歪みが計測された」

 クシイは相変わらずの落ち着いた口調で話し始めた。

「シータも知っていると思うが、ヤツらはこの世界の住人じゃあない。ヤツらが何処からやって来て、何処に去っていくのか…否、それどころかヤツらの明確な目的さえも我々は知らない。ただ、ヤツらは神出鬼没で破壊行動を繰り返す。我々の世界の平和を乱すのだ」

 クシイの過去に何があったのかは知らない。

 けれどもその言葉が、次第にARUTOへの怒りの様な、悲しみの様な…計り知れない様々な思いが満ちているものへと変わっていくのは、はっきりと分かった。

「クシイ、それは分かっています」

 私はそう言って一歩前に出た。

「とにかく立ったままなのも何ですから、座って話しませんか?」

 私はゆっくりと歩を進め、ソファーに腰を下ろす。そして、動かずに私を見つめていたクシイに向かって微笑んでみせる。

 すると、クシイは渋い表情を浮かべたが、逆らうという事は無く、机を挟んで反対側のソファーに腰を下ろす。

「すまないな。感情が先走ってしまって……」

 しばらく黙ってクシイが話し出すのを待っていると、元の落ち着いた口調でクシイは再び話し始めた。

「話を元に戻そう。歪み、についてだ。ヤツらがこの世界に現れる時、空間に微妙なずれをもたらす。それが歪みだ。『アストラル・ホール』とヤツらは呼んでいるようだが…。まあそれはいいとして、ヤツらの出現は本来、その歪みを計測する機械などなくても十分に察知する事が出来るのだ。普通の人間はともかく、我々の様にアルドに敏感な人種にとってはな」

「どういう事です?」

 私は、緊急事態などと言って呼び出したわりには、もったいぶって話すクシイに少し疑問を覚え、そう口にする。

「ヤツらがアストラル・ホールから出現する時、大量の異質なアルドが溢れ出すんだ」

「異質なアルド? そんなものは全く感じていませんが…」

 そこでクシイは大きくかぶりをふって、

「そうなんだ」

 と一言。大きくため息を付く。

「話が見えませんが…」

 私が少し遠慮がちに言うと、

「こっちも少なからず混乱しているのだ。こんな事は全く初めてだからな」

「…?」

「反応が微弱だったのだ。しかも、ほんの一瞬。機械が何とか察知する事が出来ただけで、我々でも分からない位の反応だ。場所は、シータの通っている東ココノエ高校のすぐ近く。これを見てくれ」

 クシイは脇に置いてあった鞄から、数枚の紙を取り出す。机の上に出されたそれを目にすると、その中の一枚をクシイは指さす。

「この辺一帯の地図だ。ここが学校で、すぐ傍の…ここが反応のあった場所だ」

 丸く赤で印の付けられたその場所は、学校のある丘の丁度裏手側。その中心には、鳥居のマークが描かれている。

「神社…ですか?」

 地図から顔を上げ、クシイの顔に向かって問いかける。

「ああ、それほど大きいものではないようだが。学校側から道は付いていないが、丘の裏の方には階段がついている。きちんと管理はされているそうだ」

 今度は別の紙を地図の上に載せるクシイ。

「時間は昨日の午後4時32分」

 私には、様々な数字や文字が並んでいるその紙をどう見れば良いのかは分からなかったが、確かに昨日の日付とその時刻が記されている。

「その時間にシータは何処に居た?」

 思った通りその質問がきたか、と思った。

 その時間は確か、

「家に居ました。昨日は午前放課だったし、初日からそれ程する事は無いので」

 別にさぼっていた訳では無いので、素直に本当の事を告げる。

「さっきも言った通り、何も感じませんでしたが……」

 その言葉にクシイは特に落胆した様子もなく、ただ、

「そうか」

 と呟いただけ。

 何か思案している様なので、私はクシイの次の言葉を静かに待つ。


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