運命の彼との出会い4
あっという間に放課後となってしまった。まあ、今日は午前放課なので普通の日よりは早いのだけれども。
私は本来の任務に加えて、エン=スガムラの動向を常に見張っていなければならなくなってしまっている。朝のミスのせいで…。
なんて考えている暇も今の私にはない。
どこの学校に行ってもそうなのだが、何故か男子生徒達が私の席を取り囲んでいる。
そして、色々と質問をしてくるのだ。例えば前の学校はどこだとか、家はどこにあるのかとかである。
私は適当に返答をしているが、一向にその人数が減る様子はない。むしろ増えている位だ。このままでは全く周りが見えなくなってしまうだろう。
こんな所で時間を費やしているなど無駄でしかないのに。かといって邪険に扱っていると、今後の行動に支障をきたす可能性も……。
「コバヤシさん、ちょっと」
いきなり大きな声で名前を呼ばれる。
私の周りに居た人達も驚いたのか、一瞬静まり返る。
「朝の事で聞きたいんだけれども」
そう言って私の周りの囲いを割って現れたのはエン=スガムラ。
彼は真剣な眼差しで私を見据えている。
これはもう、ばれていると考えて間違いないだろう。しかし、これ以上事を大きくする訳にはいかない。こんな人目の多い所で私の正体をばらされでもしたら――
「ちょっと来て下さい!」
気が付くと、私はそう叫んでエン=スガムラの腕を掴み、走り出していた。
こうなったらもう、きちんと話を付けなくては。事態が大きくなる前に、悩みの種は無くしておいた方が良い。
人気のない場所まで連れていき、まずは彼が何を考えているのか聞き出さなくてはいけない。
ということで、私が選んだ場所は屋上。アルドを調べたところ、屋上からは誰のアルドも感じられなかったからだ。
この学校は西棟と東棟の二つの校舎が一本の中央廊下で繋がっているという造りをしている。両棟とも四階建てで、その上が屋上である。
けれども、一般開放されているのは西棟の屋上だけである。だから、私が向かうのはもちろん西棟の屋上。
教室は東棟にあるので少し遠いが、廊下、階段をずっと走り続け、屋上へと出る。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
手すりに寄りかかって息をつく。自分でここまで引っ張って来ておきながら、息が上がってしまっていてなかなか話し出す事が出来ない。
すると、
「僕の言いたい事、何だか分かってるみたいだね」
同じ様に走って来たはずだが、全く疲れを見せない様子でエン=スガムラは話し出す。
「もう知ってるかもしれないけど、一応自己紹介しておくね。僕の名前はエン=スガムラ。エンって呼んで。呼びやすいでしょ、シータ=コバヤシさん」
「私も、シータで良いですよ」
とりあえず笑みを作ってそう返す。
そもそも、コバヤシなどと言う名を使っているのは便宜上の手段に過ぎないので、呼ばれ慣れていない。
かといってシータさん、などと呼ばれるのは何だか気持ちが悪い。だから、シータと呼び捨てにすれば良いのだ。もともとシータというのは名前ではないのだから。
「えっと、じゃあシータ。朝、学校に来る時に僕とぶつかったのは覚えているよね」
私はただ頷いて返す。
「それじゃあその時、君は小さな手帳を落としたよね、僕が拾ってあげた…」
「はい…」
「君がすぐに取り上げたからはっきりとは見えなかった。だから、もしかしたら僕の勘違いかもしれないけど……その手帳に『F・O・L・S』つまりフォルスって書いてなかった?」
やはり思った通りだ。彼は気が付いていたのだ。あれがFOLSの物なのだと。
『FOLS』とは、私が所属する組織であり、私の唯一の居場所でもある。
世間一般では警察の手に負えないような事件を解決するための組織と認知されているが、実際はそんな簡単な組織ではない。
確かに世の中の平和を守るような活動をしている訳だが、それは一般の人々の常識を超えた世界での話だ。
長くなるのでそれは置いておいて、今回私がこの高校に来たのも、FOLSからある任務を受けたからだ。
FOLSは、一定以上のアルドを持った、選び抜かれた優れた人材によって成り立っている。今回はその一定基準を満たす人物を見つけたため、私が彼女をスカウトしに来たという訳だ。
その人物というのがミズホ=イスルギだ。彼女のアルドは普通の人のそれの比ではない。ズバ抜けた値としてFOLSのメインコンピュータが見つけ出した逸材なのだ。
本来、FOLSは一般の人々にその正体を知られてはいけない。何故ならば、FOLSの本来の目的が世間に知れ渡ったとしたら、大きなパニックを起こしかねないからだ。
だから、隊員の一人一人は慎重かつ確実にその任務をこなしていかなければならない。
それなのに、私は何というミスを犯してしまったのだろうか。なんとかしてこの場をやり過ごさなければ。
はっきりと正体がばれてしまったら、今回の任務から外されてしまうという事にもなりかねない。それだけは避けなくては――
「あの紋章は確かにFOLSのマークだったと思うけど…」
私があれこれ考えて黙り込んでいると、エンがそう言い加えてくる。
エンの言う通り、あの手帳にはFOLSのマークが描かれている。隊員章なのだから当たり前だ。
まさかそれを落としてしまうとは…。
彼は完全に私を疑っている。私がFOLSの隊員ではないかと。
もし、私がFOLSファンであれは偽物だと言ったとしても、じゃあ見せてくれと言われたら見せざるを得なくなる。
下手な嘘は通用しそうにない。かといって、絶対に私の正体をばらす訳にはいかない。
どうすれば……。
「あれは…その…父のなんです」
なんとか捻り出した考え。
自分の正体さえばれなければ良いのだ。あれが他人の物だとしてしまえば、私が詳しい事が分からないとしてしまえば、必要以上の言及はしてこないだろう。
「父が、お守りとして持ってろって…」
エンは黙り込んでしまう。何か考え込んでいる様子だ。
私はこれで事が収まる事を祈りながら次の言葉を待つ。




