表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第二楽章 θ
41/113

運命の彼との出会い2

「すっ、すみません。あの、私、急いでるんで!」

 私は半ば奪うようにして少年の手から手帳を受け取ると、一目散にその場を後にする。

 同時に思い出す。実際、私は急がなければいけなかったんだ。こんな所で時間を費やしている暇はない。

 けれども、さっきのはまずい。あのせいで私の正体がばれたりしたら、今後の予定が大幅に狂ってしまうかもしれない。

 などと考えている内に、学校へと向かう道は急な坂道へと姿を変えていた。事前に分かっていた事だが、東ココノエ高校は高台の上に建っているのだ。当然、登下校では坂道を行ったり来たりしなければならない訳だが――

「き、きつい…」

 流石に走り続けるのは無理だ。

 とは言うものの、ここで止まってしまったら完全に間に合わなくなってしまう。

「しかた…ない…。これ、位…なら…いい、よね」

 息切れ切れにそう呟くと、私は鞄の中から銀のプレートの様なものを取り出す。様なものというのは、これがただの金属のアクセサリーとかそういう類のものではないからだ。

 厚さ一センチにも満たないこのプレートは、かなり精密な機械…という話である。

 …仕組みについては、私は良く分かっていないのだ。

 とにかくこのプレートは、使えば好きな所に瞬時に移動することが出来るという代物なのである。

 けれども問題もあって、出たり消えたりする所を他の人に見られてはいけないと決められている。何故ならば、この技術は本来封印された禁断の技術だからだ。

 そのため、慎重に使用しなければならないのだが、これ位の移動距離ならば、私は人のアルドを察知して誰もいない所に移動する事が出来る。

 まずは今居る所の周囲を探る。

 学校に向かう一本道なので、基本的には登校している生徒達しか通らない場所であり、遅刻寸前という時間のせいか誰一人も居ない様だ。先程ぶつかった時の二人も離れている様で、こちらは見えない距離だ。

 続けて私は意識を集中させ、校舎周辺の人のアルドを探る。

 ここまでの時間は、一秒にも満たない。

 そして、人の居ない適当な場所を見つけるとプレートへとアルドを注ぎ、一気にその場所へと空間移動。

 移動完了までで約二、三秒といったところか。あっという間に私は学校すぐ傍の木陰へと移動していた。

「あとは職員室まで行けば――」

 見ると、生徒達が何人も玄関から入っていっている所だ。あと一、二分でチャイムが鳴るのだから当たり前だとは思うが。

 私はその流れに乗るようにして何食わぬ顔で生徒玄関へと向かった。


「おはようございます!」

 職員室の扉を開けると同時に元気な挨拶をすると、中にいた先生方は一斉に私に視線を向けた。

 それと、同時に、

「キーン、カーン、カーン、コーン」

 チャイムが鳴り出す。予定通り。一秒の狂いもない。

「ああ、君が例の転校生か。教頭先生がお待ちになっていましたよ」

 入口のすぐ近くにいた先生がそう言って私を招き入れる。

 待っていたのは髪が白くなりかかっている、高齢の男の先生。この人が教頭である。

 性格は温厚で多くの生徒から慕われている。事前の調べから年齢や家族構成までもが分かってはいるが、あまり重要ではない。

 私は教頭の言う通りに、来客用のソファーに向かい合って腰を下ろす。

「初めまして、シータ=コバヤシさん。君の事は――」

 教頭の話に合わせて、私は適当に返答していく。とりあえず社交辞令は最低限こなさなければ、後々動きにくくなる事が多い。話の内容には何の意味もないのだけれども。

 私がここでしなければならない事は一つ。

「あの、ミズホ=イスルギという人がこの学校の生徒にいますよね」

 頃合いを見計らって私はそう切り出した。

「ミズホ=イスルギ? 知りませんな。ちょっとホンジョウ先生、分かりますか?」

 すぐ近くにいた、二十代後半位の若い先生に教頭先生は問いかける。

「ミズホ=イスルギですか? それなら私のクラスの生徒ですよ」

「ああそうですか。と、そうだ、コバヤシさん。君の担任が、丁度このホンジョウ先生だったんでした」

 思いだしたように言う教頭先生。

 どうやら問題無く、事前の仕込み通りに私は目標と同じクラスになれた様だ。

「そうですか、あの、よろしくお願いします」

 立ち上がって礼をする私。

「ああ、よろしく。と、それでイスルギがどうか?」

「いえ、ちょっと」

 私は言葉を濁して誤魔化す。

 ここでわざわざ名前を出した理由は二つ。一つ目は同じクラスかどうかの確認のため。そして、二つ目は私と目標が知り合いなのではないかと先生に思わせる事で、後々役に立つからだ。

「まあ、プライベートな事まで口を出す権利はないからな。それより教頭、そろそろ始業式の時間ですが」

「おおそうだった。すまないねコバヤシさん。君は私と一緒に来て下さい。クラスには後できちんと紹介してから加わる方が良いと思うので」

 教頭先生は立ち上がるとそう言った。

 私の予定も言われた通りなので、当然の如くその申し出に同意する。

 こうして、私は先生方の後に続いて体育館へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ