運命の彼との出会い1
一日目
――――私はいつからここに居るのだろう……思い…出せない。
私は誰? 私の名前は? ……シータ? 違う、シータじゃない…。
じゃあ何なの? ……分からない…分からないよ…。
自分が何をするのか、何をなすべきなのか、選択権なんて何もない。
ただ、私は命じられるままに……。
幼い頃の記憶。
皆が私を蔑み、奇異なものでも見るかのような視線。
ただそれだけがはっきりと思い出せる。
嫌! そんな目で私を見ないで! 私は何もしていない。
私は他の子達と一緒に遊びたいだけなんだから!
ねえ皆…。どうして、どうして私を避けるの?
どうして一緒に遊んでくれないの?
……ねえ…どうして…どうして私は一人なの…。
ママ…パパ……。
必ず戻ってくるから、良い子にして待ってるんだよって、言ったのに……。
私は良い子にしていたよ、なのにどうして戻ってこないの……。
どうして――――
ぱっと目を開く。と、両の頬を伝う温かいものを感じる。
「涙? 私、どうして…?」
ベッドの上に体を起こし、手の甲で涙を拭う。
…何だか嫌な夢を見ていたような気がする。でも…覚えてないな。
そこで、ふと枕元の時計が目に入る。その針は既に八時を回っている。
「えっ、嘘! もうこんな時間なの?」
私は布団を跳ね上げて起き上がる。
「あ~もう時間がない。急がないと初日から遅刻しちゃう!」
私は大声を上げながら、急いで洗面所へと向かった。
私の名前はシータ=コバヤシ。
とある理由で、今日から「東ココノエ高校」の二年生となる。
高校一年の間にも十回以上の転校を繰り返しているし、今度の学校もどれだけいられるのか分からない。色々な土地を転々とする生活を、私はずっと続けている。
けれども、遅刻は絶対に許されない。何故ならば、私の予定は初日、つまり今日の始業ベルからしっかりと詰まっているからだ。
そういうわけで、学校に一分一秒だって遅れる訳にはいかない。遅れるということは、私がこの学校に転校してきた事を無意味にしてしまう。
「まったくぅ~。どうしてこういう日に限って寝坊するかなぁ~」
手早く身支度を終えると、パンを一つ口に詰め込み家を飛び出す。
全速力で脇目も振らずに道を走って行く。家から学校まで約十分なので、走れば五分程で着くだろう。それなら何とかぎりぎりで間に合う、という時間だ。
と、突然脇の道から何かが飛び出してくる。
「きゃっ」
「うわあっ!」
思わず私は小さな悲鳴をあげてしまう。
同時に、男の人の声とゴツンという衝突音も耳に入ってくる。続けて、額に鈍痛が走る。
私は地面へと座り込むようにして倒れ込み、腰を強く地面に打ち付けてしまう。額よりもそっちの方が大きな被害を被ったようで、痛くてなかなか立ち上がる事が出来ない。
「いつつつつ。大丈夫?」
私と衝突した男の人は、それ程痛くは無かったのだろうか、すぐに立ち上がりそう声を掛けてきた。
「えっ、あ、はい」
とりあえずそう答えるが、まだ腰の痛みは取れない。
「ごめん、急いでたから。立てる?」
目の前の男の人は手を差し出してくる。私は顔を上げ、
「あっ、すみません。私の方も前を良く見ていなかったから」
と、そこでようやく私はぶつかった男の人の姿を目にする。
そこに立っていたのは、東ココノエ高校の制服を身に付けた少年であった。
よく見ると、彼の後ろには私と同じ服装をした少女が一人いて、同じ様に私の方を見ている。彼女か何かだろうか。と、そんな事はどうでもいい。
少年に視線を戻すと、どこか驚いているような表情を浮かべている事に気が付く。
「ど、どうかしました?」
私は、転んだ拍子にどこか怪我をしたり服が破れたりでもしたのかと思い、自分の身を見回す。
「あ、ごめん。見とれ――じゃなくて、えっと……」
そう言った少年の顔は、心なしか赤くなっている様に感じる。
「と、とりあえず、掴まって」
少年は私の腕を掴むとゆっくりと引き上げてくれる。腰の痛みも大体引いたようで、私はそのまま立ち上がる。
ひとまず服に付いた砂を払うと、
「ありがとうございます」
頭を下げる。と、
「パサリッ」
何かが落ちる音。
見ると、四角い手の平程の黒い物体が地面に落ちている。
少年は、すかさずそれを拾い上げた。
――――やばい――――
瞬時に、その言葉が頭の中を走り抜けた。




