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アイ3


「ミルトを運んで行ってくれ」

 そのカズヤの言葉に、私とカイは気絶している目の前の少女、ミルトを抱え倉庫の外へと向かう。

 だが、外に出た瞬間に予想外の大音響に後ろを振り返る。

 そこには、「ガーン」と大きな音をたてて閉まった鉄の扉が。

「何、どうしたの?」

 私はあわてて扉に手をかけるがびくともしない。

「カズヤ! カズヤッ!」

 私は扉をガンガン叩きながらそう叫ぶが何も返ってこない。

「アイさん、とりあえずミルト様を安全な所に」

 落ち着きを忘れかけていた私にカイが声をかけるが、私は返事をする事は出来なかった。何故なら、

「ドガーンッ」と爆発音が倉庫の中から響いてきたからだ。

「カ、カズヤ…」

 私は声にならない声を出し、耐えられずに地面に腰をおとす。

「アイさん!」

 ミルトを数十メートル離れた所に寝かせ、カイは私の所へ戻ってくる。

「アイさん、しっかりして」

 カイはそう言って私の腕をひっぱるが、私は腰が抜けて扉の前から動くことが出来ない。

「アイさん、カズヤを信じて。アイツがこんな事で死ぬようなヤツじゃないってこと…」

「知ってる、知ってるわ!」

 私はカイの言葉に知らないうちに怒鳴り返していた。

「知ってる…でも…でも……」

 私はそこで言い淀んでしまう。

 その時、「ボカーンッ」と一際大きな爆裂音が響く。

 私とカイは一斉に倉庫の方へと顔を向ける。けれども、外からでは何が起こったのか全く分からず、変化は見られない。

 私はなんとか足に力を込め立ち上がると倉庫へと向かう。

「アイさん、ここは危険だ、離れましょう!!」

 その手をカイが強く引っぱる。

「離して、私はカズヤの所に行くの!」

 必死に振りきろうとする私。しかし、

「バチンッ」と、平手打ちが私の右頬に。

「すみません、でも少し落ち着いて下さい。カズヤが何のために、オレ達三人を先に逃げ出させたのかを考えて下さい」

 カイは落ち着いた声でそう言った。

 私は頬の痛みとその言葉とに、動けなくなる。

「行きましょう」

 再びカイが私の腕を引っぱる。今度はそのまま手を引かれ、ミルトがいる所にまで引っ張られて行く。

 振り返り倉庫を見ると、

「ドッガーン!!」

 今までとは比べられない程の大音響と共に倉庫が炎に包まれる。さっきまで私たちがいた場所は、その衝撃で崩れ落ちてきた鉄の塊が、赤くなりながら覆い尽くしていく。

 私は言葉を失ってしまう。あのままあそこにいたら…いや、それよりもカズヤは――

  

 数分間、私たちはその場に無言で立ちつくしていた。遠くから、サイレンの音がだんだんと近づいてくる。さすがに警察や消防署も気がつき、ここに向かっているのだろう。

 このままここにいるのは危ないと、分かってはいるが動くことが出来ない。

 カズヤはどうなったの? あの爆発では…

「おい、何ボケッとしてんだ? 早くここを去らないとやばいだろ!」

 ふいに後ろから声が掛かけられ、私ははっとして振り返る。

 聞き間違えるはずがない、その声は。

「カズヤ!」

 私は走り出し、思いっきり抱きついた。

「おい、何やってんだよ」

 カズヤは相変わらずの声で、落ち着いてそう返す。服はボロボロになっていて、その間からは赤い液体が所々流れ出ている。

「い、今傷の手当を」

 私はあわてて離れると持ち歩いているかばんを開けようとする。

「そんなことは後でいい。とりあえず早くここを離れないと。カイ、ミルトは頼んだ。オレはちょっと持てそうにないんでな」

 カイに言ったその言葉からも、平気そうにしているその態度とは裏腹に、カズヤの傷は深いということが読みとれた。カズヤはそのまま先頭に立って走り出す。

「お、おい待てよカズヤ!」

 カイも我に返ったようで、慌ててミルトを抱えるとその後を追って走り出す。私はカズヤの傷の様子が気にはなったが、相変わらずの様子に一安心し、

「待ってよ二人とも!」

 と走り出した。


――そう、変わっていなかったんだ、その時までは。

 気がついたのはその後、後日会いに来るということでカイはミルトをつれてそのまま屋敷へと帰り、二人で家に着いた時だった。

 どこかボーッとしている。何か遠くを見つめているような目をしている。手当をしている間中、ずっと…。


 あの倉庫の中で何かがあったのだ。ヤツとカズヤの間に ――  


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