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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第一楽章 μ
37/113

檻の外で3

 私も彼女に近づいていく。

「デール、あの人は?」

 私に気が付くと、ガルデルムの顔を覗き込むようにしてそう尋ねる。

「ああ彼女は――」

「こんにちは。私はミズホ。ミズホ=イスルギよ」

 笑顔で明るくそう言った。

 彼女もその笑顔に答えるかの如く、満面の笑みを浮かべる。

「リシェルです。初めまして、ミズホさん!」

 ぺこりと頭を下げる仕草がまた可愛らしい。これが母性をくすぐるというやつだろうか。

「ミズホはリシェルの命の恩人なんだぞ。ミズホがいなかったら今頃どうなっていたか」

 ガルデルムは簡単に今の状況をリシェルに説明する。リシェルは分かっているのかいないのか、一々こくこくと頷きながら、大人しく最後まで話を聞いていた。

「そうなんだ。ミズホさん、ありがとうございました」

 深々と頭を下げるリシェル。

 私はちょっと恥ずかしくなり、鼻の頭をかくと、

「そんな、当たり前のことをしたまでよ。それと、ミズホでいいよ、リシェルちゃん」

 と、いきなりガルデルムがプッと吹き出す。

「な、何よ!」

「お前…ミズホ、誤解してると思うから言っておくが、リシェルは十八歳だぞ」

 笑いを堪えながらのガルデルムの言葉に、私は耳を疑いリシェルの顔を見る。

「デールの言う通りだよ、ミズホ!」

 相変わらずの無邪気な笑顔でリシェルが答える。

「でも、本当にタイムスリップしたんだったらすごいね」

 そう言うリシェルは、どう見ても年上には見えない。百歩譲っても十四、五歳にしか見えない。

 と、そんなことを考えていると、


「ドカーーーーーーン!」


 大音響で爆発音が周囲に響きわたり、それとほぼ同時に衝撃波が体を揺らす。どこから聞こえてきたのかといえば――校舎の方向だ。

「何だ、今のは!」

「な~に、今の?」

 一瞬で緊張を高めるガルデルムと全く変わらずのリシェル。

「忘れてた! 学校に入らなくちゃいけないんだったんだ!」

 ガルデルムとリシェルの登場で、その事をさっぱり忘れてしまっていた。

 しかし、今の爆発音で自分が何をしようとしていたのかを思い出す。

「学校に入らなくては、とはどういうことだ? 今の爆発と、どういう関係があるのだ?」

 冷静に問いかけてくるガルデルム。

 そのおかげて、私の気の動転もいくらか抑えられる。

「えっと…」

 何から話せば良いのか分からずに言葉を詰まらせる。

 大体、自分自身でもはっきりと現状を理解していないのに、どう説明したら良いものか。

「簡単に言うと、学校の中で何か事件が起こっていて、私の知り合いもそれに巻き込まれているの。助けようと思うんだけど、校舎には結界が張られていて中に入れなくって――」

 これで伝わったのかどうかは分からないが、私はもう居ても立ってもいられなくなり、言い終わると同時に校舎に向かって走り出した。

「お、おい待て」

 ガルデルムが呼び止めるが、私は振り返りもせずに走り続ける。

「ちっ、リシェル行くぞ。遅れるな!」


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