檻の外で2
「おいっ、おいっ! どうしたんだ!」
男は少女を揺さぶるが、全く反応が返ってこない。それもそのはず、彼女の体からはアルドが全く感じられなかったのだ。
「待って下さい、落ち着いて!」
私はすぐさま二人に駆け寄る。
男も気が動転していたのだろうか、先程の警戒は何だったのかと思う程、私の接近をいとも簡単に許した。
「静かに彼女を地面に降ろして!」
男の腕をつかみ、私はそう叫ぶ様にして言った。
「お前に何が――」
「いいから早く!」
男は私の手を振り払おうとするが、私は一層強い口調でそれを静止させる。
男は一度私の顔を見ると、納得したのかゆっくりと少女を地面に降ろす。
「リシェルはどうしたんだ? お前は一体――」
「いいから黙ってて!」
私は少女の胸に両手を当てると、その両手に意識を集中しながらそう叫ぶ。
これは一刻を争う事態なのだ。少しでも遅れれば彼女の命は危ない。
だんだんと両手に私のアルドが集まってくるのを感じる。
手の触れている部分から微かに少女の体が光り出し、体全体へとその光が拡がる。その瞬間、私はぐっと力を込める。
光は彼女の体に吸い込まれるようにして一気に消え去り、私は軽い脱力感を覚える。
「終わったわよ」
私は少女から手を離すと、フゥーと大きく息を吐き出しそう言った。
「もう命の危険はないわ。しばらくすれば目を覚ますと思うし」
真っ青だった少女の顔は赤みを取り戻し、表情も柔らかくなったように感じる。
「すまなかったな。とりあえず、礼を言っておく」
少女を休ませるために少し離れた所に移動すると、男は素直にそう言って頭を下げた。
「あら、もう私の事は警戒しないの?」
「リシェルの命の恩人だからな。それに、お前は危険な人物には見えない」
「まあそうだけど…。そうだ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はミズホ=イスルギよ。あなたは?」
「オレの名はガルデルム。こっちはリシェルだ」
男はそう名乗った。
「ところで、今リシェルにしたのは――」
「もちろんアルドを彼女に注ぎ込んだのよ。私のをね。彼女のアルドは、何故かは知らないけど、全てと言って良い程消費されていて残っていなかった。あなたは咄嗟に分かんなかったみたいだけど、転移をすればそうなるって知らなかったの?」
私の問いに、ガルデルムは首を振って答える。
「ああ、あれはオレ達にとって偶然の産物だったからな。何が起こるかなんて予想もしていなかった」
「予想もしてなかったって、じゃあ何でそんなものを使ったのよ?」
私は驚いた。空間転移っていう失われた技術を使ったのはもちろん、後先の事を考えずにそんなものを使うなんて。
「それについては…」
何か言いかけてガルデルムは言葉を止める。
「どうしたの?」
前髪のせいで表情が読みとりにくいため、何を考えているのか全く想像が出来ない。
すると、一拍空けた後に、ガルデルムはゆっくりと再び話し始めた。
「少し、質問がある。ミズホは先程からアルドという言葉を何度も口にしているが――」
「何? それがどうしたの?」
ガルデルムが何を言いたいのか全く分からない。
「それがどうしたの、か」
けれども、ガルデルムは私の言葉を聞くと何かを納得したようにそう呟いた。
「何なのよ一体? 分かるように説明してよ!」
私がそう言うとガルデルムは頷き、説明し始める。
「分かった。では、順を追って説明しよう。オレとリシェルは――」
ガルデルムは分かりやすく、短くまとめてこれまでのいきさつを話してくれた。
けれども、その内容はとてもじゃないけれども私には信じられないような話だった。
文明が一度滅んだとか、普通の人はアルドを持っていないとか、まったくもって私の知っている、いわゆる常識というやつからはかけ離れている。
ガルデルム達は、その滅んだという前文明の遺跡とかいう所で、偶然見つけた装置によって消え去った知り合いを追ってここに来たという事だ。
もし彼の言っていることが本当だとしたら、彼らはこことは全く違う世界…異世界から来た、としか言いようがない。
私は彼の話に対して、文明が滅ぶ何て事は無く世界は日々発展を続けているし、アルドは、その差はあるけれども、全ての人が持っているものだと説明した。
「まるで文明が崩壊する前にタイムワープして来たみたいだな」
ぽつりとガルデルムが呟く。
それを聞いて、私もなるほどと思う。そうだとしたらとりあえずは話の辻褄が合う。
しかし、本当にそんな事が起こり得るのだろうか。ガルデルム達が発見した装置って一体……。
「デール、ここは?」
急に掛けられたその言葉に、共に考え込んでいた私とガルデルムはそろって声の出所を振り向く。
ゆっくりと立ち上がったのは身長百五十センチ程の少女、リシェルだ。肩まで伸びたカールした髪、透き通った透明感のある声が印象的である。
「リシェル、もう大丈夫なのか?」
すぐさま駆け寄るガルデルム。
先程の慌て様もそうだが、今のこの行動からも彼がリシェルをどれだけ大切にしているのかがうかがえる。
「何だか頭が少しボーッとするけど…大丈夫だよデール!」
そう言って浮かべた笑顔にはリシェルの純真さ、幼さが感じられた。




