焦燥感と来訪者2
「いったい何なのよ、いきなりこんな所に隠れるようにして!」
アミが腕を離すと、私は声を抑えてそう言った。
「いきなりでごめんね。でも、あのままあそこにいたらミズホも危なかったんだから」
「私も? 危ない?」
アミの言っていることが全く理解出来ない。
「あ、まあ危ないっていうのは言い過ぎなんだけど、とにかく門前払いみたいな感じなのよ」
「門前払い? 学校が?」
顔をしかめる。
それとこれとどういう関係があるのだろう。それだけで、わざわざ隠れる必要はないはずだ。
「分かんないよね、これじゃあ。順を追って説明するわ」
私の心の内を悟ったのか、アミはゆっくりと話し始める。
「私が学校に来た時にはまだあの教室の煙も出てなくて、あったのは――ほら、あの車一台と、門の前に立ってる――あ、あそこの他の警察官とは違って白い制服を着ている二人が居ただけだったのよね」
指差しながら、アミはそう説明する。
その先には何の柄もついていない普通の黒いワゴン車と、アミの言う通り同じ白いコートのような服を着ている二人組が門を守るようにして立っている。一方の白服は、明らかに警官と見て取れる人と何か話している様子で、もう一方は不動で立っている。両方ともサングラスをかけていて、表情を読みとるのは難しい。
「分かる? あの制服」
「えっ?」
その言葉に振り返ると、アミはもう一度門の方を向き、
「ほら、あの二人の胸の辺り、見てみて。何か書かれてるでしょう?」
言われた通り二人の白い制服の胸の辺りには銀のプレートの様な物があり、そこに何か彫り込まれているようだった。
「F.O.L.S.?」
声に出して読んでみる。心当たりのある単語ではない。
「分からない? けっこう有名だと思ったんだけどな」
少し驚いた様子のアミ。
「もったいつけずに言いなさいよ!」
その様子をじれったく思い、先を促す。
「FOLSよ」
「フォルス?」
「その正体は明らかではないが、警察の手に負えない大事件を解決するために結成された極秘の組織……っていうのが大方のFOLSに対しての噂ね」
「大方の噂? って事は違うって事?」
「うーん、それが分かったら秘密組織じゃないと思うんだけどねえ」
「とにかくどういう事なのよ!」
なかなか先に進まない話に思わず大きな声を出してしまう。
「ちょっとミズホ、落ち着きなさいよ」
アミは周囲にばれていないかきょろきょろと見回しながらそう言った。
幸い、大勢の警官達や警察車両の出す音の方が大きい様で、誰かに気付かれるという事は無かった。
「何でそんなに慌ててるのよ。そりゃあいきなり学校がこんな事になってれば、何があったのか気になるかもしれないけど、そこまで慌てる必要はないんじゃない?」
そう指摘され、私は初めて自分が取り乱していることに気付く。
そして、気持ちを落ちつけようと一呼吸置いてから答えた。
「エンがいないのよ」
「エン君? そう言えばいつも朝は一緒よね。昨日も別々だったみたいだけど、どうかしたの?」
アミは私が言わんとしている所をあまり理解していないようだ。
私は簡潔に言いたい事をまとめて口にする。
「だからね、エンは朝早く家を出たらしいのよ」
私はそこで一度言葉を止めるが、アミは私の言おうとしている事をまだ分かっていない様子なので、すぐに続きを口にする。
「事件が起きる前に学校に入ってるかもって――」
一瞬、何とも言えない沈黙が流れる。が、
「そ、そうとは限らないんじゃない? 学校に来てるって保証はないし」
アミが慌ててその気まずい雰囲気を取り払う。
「そう、なんだけれども…」
自分でもそんな事は分かっている。けれども不安はどんどん大きくなっていく。
根拠のないはずなのに、考えは悪い方へ、悪い方へと進んでいく。
一体学校で何が起こっているのか…。
「一体? そうよ、一体どういうことなのよ! 何か話がずれちゃってたけど、この状況の事全然聞いてないじゃない!」
不意にその事を思い出しアミの顔を見直す。
「そう言えばいつの間にか話がずれちゃってる。ごめんごめん。えっと、確か私が来た時にはFOLSの二人がいただけだったってとこだけ話したんだよね?」
私はこくりと頷き、
「そうよ。だから何でそのどえらい組織のフォルスとやらがいるのよ」
その言葉にアミは少し困った顔をして、
「流石にそこまでは分からないけど…」
と一度言葉を濁すが、続けて口を開く。
「まあ話を進めるけど、私は門の所までやって来てあの人達に捕まったっていうか、止められた訳よ。それで『今日は、学校は休みだと連絡が回ったはずだが』って。私は早く家を出たせいか、連絡ミスなのか、聞いてなかったんだけど、ミズホは?」
「私も聞いてないよ。エンの家に行くために早く家を出たからなのかなぁ。あ、でもここに来るまでに他の生徒は見なかったわ、言われてみれば」
走っている間はそんな事気にしている余裕は無かったが、思い返してみると、確かに通学路に他の生徒が居なかった。




