乙女心と春の空3
「そっか」
私はにっこりと笑みを浮かべシータを見る。
「じゃあ、私がシータの友達第一号ね」
そういうとシータは驚いたような表情を浮かべ、一瞬動きが止まる。
「友…達…」
その言葉を噛みしめるように呟くシータ。
「そう、友達よ」
そう繰り返すと今度はシータの顔が真っ赤になっていく。
なんていうのか表現し辛いが、一口に言うと可愛い。何だかぎゅっと抱きしめたくなるような、そんな幼い表情である。
私の一言が彼女に与えた衝撃はどれだけのものなのか、それだけで大体読みとれた。
「さあ、お弁当、早く食べましょう。時間がなくなっちゃうよ」
縮こまっているシータの手を取り私はもう一度、にっこりと微笑みかける。
「は、はいっ!」
シータはそう言って顔を上げ、私達は昼食を食べ始めた。
食べながら、私はシータに何度か話しかけた。
誕生日はいつか、とか血液型は何か、とか。今はどこに住んでいるのか、どこから引っ越してきたのか。
シータは私の質問に答えはしてくれたものの、少しおかしな印象を受けた。何故かは分からないが、弁当を食べ始める前とは雰囲気がどことなく違う。
私が話しかけても一言二言返すだけで、会話を続けたくない、というような感じさえした。
そんなこんなで、違和感を感じながら弁当を食べ終えると、不意にシータの方から話しかけてきた。
「あの、一つ聞いてもいい?」
別に声自体にはこれと言って変わった点はなかった。それでも私は、どこか変な風に感じた。
「何?」
「ミズホは私の隣の席のエンくんの幼なじみなんだよね」
「えっあ、うん」
ドキンッと心臓が大きく響く。
忘れかけていた考えが、急に私の心を揺さぶり始める。
エンくんって何?! もう名前で呼んでる間柄なの?!
シータが次の言葉を口にするまでの数秒間が、私には無限の時のように感じられた。全てのものがスローモーションで動き、心臓の音だけが時を支配する。
「彼、今日、教室に全然いないでしょ? 休み時間毎に何処かに行っているみたいだけれど、何か知ってる?」
「へっ? ううん、幼なじみだからって何でも知ってるわけじゃあないから。普段はあんな風に居なくなったりしないんだけどね」
思わず声が裏返ってしまう。
「そう、なんだ。じゃあ伝えといて欲しいんだ。例の話、大丈夫だから今日の夜八時に私の家に来てって」
「あ、い、家?! う、うん、分かった」
私は無理して笑顔を作った。けれども内心では、大混乱の大パニック。例の話って何? 家に来てって……。
と、シータは急にポケットから何かを取り出す。それに一瞬目を落とすと、シータは慌てた様子で立ち上がる。
「ごめんなさい、急用が入ったみたい。行かなくちゃ。じゃあミズホ、さっきの事お願いしま…お願いね」
手を振って走り去って行くシータ。その後ろ姿をただ呆然として見送る私。
そのまましばらくの間、私はベンチに座ったまま動く事が出来なかった。
その日、シータはその後の授業に出なかった――――
気が付くと、午後の授業も全て終わり放課後。
そこで今日初めて、やっとの事で、教室を出ようとしているエンを捕まえた。
「うわっと。どうしたんだよミズホ?」
服の袖を私が引っぱったせいでエンはバランスを崩して倒れ込みそうになる。
「どうしたんだ、じゃないわよ。それはこっちのセリフ! まったく毎時間毎時間、休み時間になるとすぐにどっか行っちゃうし、放課後になったかと思うと荷物をまとめてすぐに出て行こうとするし、どうしたのよ!」
私はいい加減むしゃくしゃしていた。
どうしてこんなヤツのために、私がうじゃうじゃと一日中思い悩まなきゃいけないのさ。
さっさとシータの伝言を伝えようとしても、休み時間の度に姿を消してしまうエン。すぐに廊下に追いかけて出ていっても何故か見つからない。
半ば自暴自棄になって私は続けた。
「シータからの伝言! 例の件で今夜八時に家に来てって!」
「何をそんなに怒ってるんだよ?」
エンは驚きの表情を浮かべそう言った。
そう言われても私の気持ちの高ぶりは収まらない。
「怒ってなんかないわよ! とにかく、私はちゃんと伝えたからね!」
私はこれでもかというくらい大声でそう怒鳴りつけていた。
そして、そのまま教室を出ると勢い良く扉を閉める。バンッという大きな音が廊下に響きわたり、近くにいた人達が何事かとこっちを振り向く。
けれども私は、そんな事は気にも止めずに玄関へと向かう。
背後でエンが何か言っているようだったが耳には何も入ってこない。
自分でもどうしてなのか分からなかったが、私は怒りに支配されていた。何に対して怒っているのか。エン、シータ、それとも自分自身?
やりきれない気持ちのまま、私は帰途につくのだった――




