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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
第一楽章 μ
23/113

幼馴染と転校生1

一日目


「おはようございまーすっ!」

 私は扉を開くと、元気良く奥の部屋に向かってそう挨拶した。

「おはよう、ミズホちゃん。今日も元気が良いわね」

 そう言って顔を出したのは中年の女性。

 言葉と共に、美味しそうな朝食の香りが流れてくる。

「おばさま、エンいますか?」

 私はその女性にそう問いかける。返ってきたのは予想通りの言葉。

「ええ、布団の中にね」

 私は大きく溜め息をつく。

「おばさま、上がらせてもらいます」

 私は答えを待たずにさっさと靴を脱いで上がりこむと、二階への階段を駆け上がる。

 そのまますぐ横の扉を開け放つと、躊躇い無く中へと入る。

「エン! 今何時だと思ってんのよ!」

 私はベッドの布団をめくると同時に大声で怒鳴りつけた。

「わわっ!」

 そう言って飛び起きたのはこの部屋の主であり、私の幼なじみでもあるエンだ。

「なんだ、ミズホかあ」

 エンは寝癖のついた頭をぼりぼりとかきながら、寝ぼけた声でそう言った。

「何だ、じゃないわよ! 今何時だと思ってるのよ!」

 私は怒りをあらわに再びそう言うと、枕元にあった目覚まし時計を投げつける。

 いつもの如く、目覚ましは既に止められている。

「いったいなあ。何する……!」

 寝ぼけまなこだったエンの顔が一転する。

「もう八時じゃないか!」

「だから言ったでしょ! ほら制服!」

 クローゼットから取り出した物をエンに向かって投げつける。

「早くしなさいよ!」

 私は念を押すと、エンに背中を向け部屋を出る。そして、扉を閉めたところでふうっと一つ溜め息をつく。

 今度はゆっくりと階段を降りて行く。と、下にはおばさま、エンの母親が待っていた。

「いつもごめんねぇ。私がいくら起こしても起きなくて」

 おばさまは、すまなそうにそう言った。

「いえ、もう慣れてますから」

 会話をする私達の頭上からはガタゴトと騒々しい音が響いてくる。

「もう高校二年なんだから、もうちょっとしっかりできないのか…」

 そう言ってはいるが、その口調からは諦めの気持ちが読みとれる。

 確かにエンの寝坊癖は小学校からずっとで、そうそう治るものではないと私も思っている。

 そのまま会話を続けていると、バタンッと扉の閉まる大きな音が聞こえてきたかと思うと、ドタドタと階段を駆け下りてくる音。

「じゃあおばさま、いってきます!」

 私は階段を降りてくるエンを確認すると、靴を履いて鞄を持ち玄関を出る。

「いってきまーす!」

 エンも続いてそう言うと外に出る。

「まったく、新学期早々遅刻寸前で行くことになるなんて」

 私はわざと聞こえるようにぼやいてみせる。

「だったら先に行ってればいいじゃないか!」

「そんな事してたらあんたいつも遅刻じゃない!」

 私達は学校への道を走りながら言葉を交わす。

 エンの家から学校までは走ると五分もかからない。と言っても、高台の上に位置する「東ココノエ高校」まではずっと登り坂のため、走り続けるのはかなり疲れる。大抵途中で歩くことになるので、実質的には七、八分といったところだ。

 そして、始業まで残り十分。なんとか間に合うかというところだ。


 私の名前はミズホ=イスルギ。今日から東ココノエ高校の二年生となる華の十六歳。

 一応スポーツ万能って事で通っていて、頭も悪くはない。自分で言うのもなんだけど、顔も良い方だし、スタイルだってそうそう他の人には引けを取らないと思っている。

 それとは逆に、私の横を走っている男、幼なじみのエン=スガムラは、毎日寝坊するわ、運動は全然出来無いわで。容姿は…まあ悪くは無い…と思うけれども。

 とりあえず冴えない奴だ。良い所が無いと言う訳じゃあないんだけれど。……と、そんな訳で、面倒見のよいミズホちゃんとしては冴えない幼なじみを放ってはおけないということでこのように毎朝迎えに行ってる訳である。


 しばらく走り続けていると、学校前の最後の登りへと入る十字路が見えてくる。ここを曲がると道の傾斜がぐっときつくなるという所だ。

 私達はそのまま走り続けていくと、

「うわあっ!」

「きゃっ」

 大きな衝突音と共にエンが何かに激突し、地面に倒れ込む。

 何かっていうのはもう一つの小さな悲鳴の主、横の道から現れた一人の少女だ。

「いつつつつ。大丈夫?」

 額を押さえながら立ち上がったエンは、目の前に座り込むような格好でいる少女に声を掛ける。

「えっ、あ、はい」

 少女は下を向いたまま、痛みを堪えるようにそう言った。どうやら腰をしたたか打ちつけたみたいで、手を当てている。

「ごめん、急いでたから。立てる?」

 そう言ってエンは手を差し伸べる。

 目の前に差し出された手に気がついたのか、少女は顔を上げながら、

「あっ、すみません。私の方も前を良く見ていなかったから」

 と、その言葉を聞いたエンの動きが止まる。

 何事かと私も少女へと視線を移すと、同じ様に言葉も出せずにその少女の顔に見入ってしまった。

 それ程までに、その少女は女の私から見ても溜め息が出るほど綺麗な顔立ちをしていた。ぱっちりとした黒い瞳、すっと通っている鼻、淡いピンクの唇。それらが見事な均整を保って並んでいる。風に揺られ、微かになびいている長い黒髪も、その美しさを際立たせていた。


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