ARM the timeshaper 2
「それで、例の装置とやらはどこにあるのだ?」
男は続けて問いかける。
男の名前は定かではないが、「ガルデルム」とカズヤは呼んでいる。私は、それは何かコードネームのようなものだと思っているが。
「これだ」
そう言ってカズヤが指差した先には、二メートル程の高さで円柱状の物体が立っていた。というよりも、その部分だけが辛うじて瓦礫の山から顔を出しているという感じである。
円柱の後ろ半分は瓦礫に隠れてしまっているので正確な柱の太さは見て取れないし、上下は瓦礫の中を限りなく伸びているかもしれない。ともかく得体の知れないものであることは確かだ。
「なるほどね」
ガルデルムはそう呟くと、その装置の元へ闇の中を滑るように移動する。
「普通に触っている分には何の問題もなかった。けれども、オレが左手――アームで 触れた途端、急に激しい光、目が眩む位の光を発して、次の瞬間にはアイの姿がなかった…」
「ほう」
ガルデルムはカズヤの言葉をきちんと聞いているのかいないのか、既にその装置の周りを調べ始めていた。
「その後もアームで何度も触れてみたんだが、それ以上は何も起こらなかった。その時に見つけたんだが…」
そう言って、ズボンのポケットから取り出したのは女物の腕時計。それをガルデルムのすぐ近くまで差し出すと、
「こいつが留められたまま、落ちていた」
カズヤは、留められたまま、という所を特に強調して声に出した。
つまりこう言いたいのだろう。何かの拍子にバンドが外れたのではなく、その時計だけが消え去らずに残っていたのだ、と。
その意を理解したのかしないのか、ガルデルムは振り返るが時計に一瞥をくれただけですぐ柱に向き直る。
カズヤはそれを確認すると、時計を再びポケットへと戻す。そして、ガルデルムの後ろ姿を無言のまま見つめていた。
時間にするとおそらく二、三分の間だったのだろう。しかし、私にはそれは無限の時のように感じられた。何故なら、二人の間に漂う空気は言いようのない、何か奇妙なもの――
「なるほど、ね」
その空気を取り払ったのは、ガルデルムのその言葉であった。
「さっきの時計のことは良くはわからないが…これは転移装置だな」
そう言ってガルデルムは振り返り、カズヤへと説明を始める。
「転移装置?」
私には、その言葉の意図した所を理解することができた。だが、カズヤには分かるはずもなく、すぐに聞き返す。
何故なら、この世界には――――確かに今の世界には、そんな物が存在しているはずはないのだから。逆に、その存在を知っているガルデルムの方に私は驚かされる。
「転移装置というのは、人や物をこの場所から別の場所へと一瞬で移動させる装置の事だ」
その説明に、カズヤは少し首を傾げた後に応える。
「ミルトをさらっていった奴が、一瞬で現れたり消えたりして移動していたらしいが……それが転移装置の力って事か?」
と、ガルデルムは「フゥーー」と大きく息を吐き出す。続いて、
「あいつめ、そんな事をしていたのか」
小さく呟く声が聞こえて来る。
「何だ?」
「いや、こっちの話だ。気にするな。……話を戻そう」
ガルデルムはかぶりを振ると、再び話し始める。
「今の話、我々組織の人間は転移の能力が使えるというのは間違いでは無い。だが、我々は何か装置を使っている訳ではない。自分一人の力でそれを行っているのだ。だが、転移の力は誰でも使えるという訳ではない」
そこまで話を聞いたところで、カズヤは理解した様だ。
「つまり、その装置を使うと誰でもその転移の力が利用できるって事なんだな?」
「ふ、理解が早くて助かる。加えて言うと、これだけ大きな装置となると、個人が使える能力を遥かに超えた転移が可能となるだろう。例えば…一瞬で海を越えて別の大陸に、何て事も出来るだろうな」
ガルデルムの説明は間違ってはいない。間違ってはいないが、やはり彼の知識もまだ、失われた文明には程遠い様だ。
彼がどれ程の知識を持っているのか興味はあるが、今の私にはそれを聞き出す術は無い。
「ということは、アイはこの世界のどこかに転移させられてしまったという事か? それがどこかは分からないのか?」
カズヤが続け様に質問をする。
それに対し、ガルデルムは一度考える様な仕草を見せた後、口を開く。
「今はまだ何とも言えんな。もっと詳しく調べてみれば分かるかもしれないし、調べても分からないかもしれない。何しろこんな大掛かりな装置は初めて見たものでな」
カズヤはガルデルムを睨みつける。彼が本当にそう思って言っているのか真意を探っているのだ。
やがて、重々しくその口を開いた。
「分かった。調査を頼む……」
これは、始まりの物語。
彼の、彼らの、彼女らの……長い長い旅の始まりの物語。
Prelude end.




