ARM the timeshaper 1
時に人は誤った道を進む。その過ちに気付くのは、もう引き返せない所にまで歩みを進めてしまった後だ。
けれども、道を進まなければ誰にも分からない。その道が正しいのか、間違っているのか。知り得るのはその先を見た者だけ。その道を一度、歩んだ者だけだ。
そして、人は願う。道を遡ることを。正しき道を歩むことを。あの時、ああすれば良かったと。
しかし、例えそれをさかのぼることができたとしても、果たして、そこには全く同じ分岐点が残っているのだろうか。ある者が新しい道を創り、歩んでいたとしたら全く同じ道はもう存在しないのではないだろうか。
それは自分が戻って来た道も例外ではない。道は自分の歩き方によっても姿形を変えてしまうものだから。
右手に宝の山があったとしても、左手のゴミの山をずっと見ていては財宝を手に入れることはできない。そして、その財宝に気が付いたとしても、財宝の陰に咲いているささやかな一輪の小さな花に、誰か気づく者がいるだろうか。
ある所に一人の少年がいた。少年は父、母、それと妹と慎ましくも幸せに暮らしていた。しかし、少年はある時に突然ある場所に立たされることとなった。そう、人生の岐路…。少年は考えた。
その結果、少年は一人になることを選んだ。
ある所に一人の少女がいた。少女は父親と二人きりだったが、同じように幸せに暮らしていた。けれども少女もまた、人生の岐路へ立つことになった。
その少年と出会うことで――
月日が経ち、青年となったかつての少年と少女は、新たな岐路に立つことになった。
二人は知らない。自らがたどる数奇な運命を。その先で待つものを。
その時はまだ――
「運命」――人は、自分の力ではどうやっても変えられない現実に突き当たってしまった時、この言葉を口にする。
しかし、果たして本当にそうなのであろうか。それは無限に枝分かれしている道を選んで歩んでいった結果……そう、その者自らが選択したものなのだ。
それを「運命」などと言う言葉で片づけてしまうことは、全くもって愚かなことだ。
「運命」と言えるものがあるとしたら、それはその者の意志とは全く関係なく、意図した、しないに関わらず、別の何かによって定められたもの。
例えるならば、どんな道を進んでいったとしても、逆戻りしたとしても、必ず通らなければならない場所――
私は今、とある自動車の中にいる。
車の外は既に闇に包まれ、車のヘッドライトだけが進む道を明るく照らしている。
前後に他の車はいない。対向車線も同様だ。つまり、走っているのは私の乗っているこの車ただ一台だけ。
それもそのはず、今この車が向かっている先は、昼間でさえ殆ど人気のない郊外にある廃墟なのだから。
車のスピードは優に百二十キロを越えているだろう。もし警察がいようものなら、当然取り締まり対象だろう。そんなハイスピードで、車は比較的真っ直ぐな道を進んで行く。
車の主であるカズヤはというと、黙ったままハンドルを握っている。といっても、考えていることは手に取るように分かるのだが。
「精神感応」――私の能力の一部である。
不意に車のブレーキが踏まれ、スピードが落ちていく。信号などあるわけもないので、目的地に着いたのだろう。
案の定、車が止まるとカズヤはエンジンを止め外へと出て行く。
車のライトが消えると辺りは黒に染まる。雲がかかっているのか、月の光さえも届かない暗闇の中をカズヤは迷いもせずに歩を進め始める。
目指す所は数時間前に一度訪れた場所。
周囲はガラクタの山が取り囲んでいた。前文明の遺跡とカズヤ達は呼んでいるが、私に言わせればただのゴミの山だ。
まあそれはいいとして、カズヤが向かう先というのはある装置の元だ。
それにしても……カズヤの記憶力には驚かされる。
道など無いこの場所を真っ暗闇の中、間違いもせずに進んで行く。流石、何でも屋などという仕事をやっているだけの事はあると言うべきなのだろうか。
しばらく細い道を歩き続けたカズヤは、少し開けた場所に着くと足を止めた。目的の場所に到着したのだ。
「おい、いないのか?」
カズヤは周りを見回しながら、ここに来て初めて口を開く。口調からは苛立ちが感じられる。
と、闇の中から湧き出るかの如く一つの影が現れる。
「先に来ていると言っただろう?」
そう言ったのは、カズヤと同じ黒髪の男。前髪が長く伸びており、その視線の先を見て取ることはできないが、口元に僅かに笑みを浮かべていた。




