カズヤ4
「カズヤ! おい起きろよ、着いたぞ!」
オレはその言葉によって目を覚ます。
「ん、ふぁ~あ」
大きく伸びをしながら目を開けると、大きく息を一つ吐いた。
「ったく、どうしてこう短時間でこうも深く寝られるかな」
横の運転席から、カイの呆れたような声が聞こえてくる。
「悪いな、普段はこんな事はないんだが……今日は色々あって疲れているんかな。変な夢まで見ていたような気がするし」
「変な夢?」
「ああ、といっても良く覚えてないけどな。目覚めとともにパーッと全部飛んでったよ。でも、何か変な夢を見てたって事だけは覚えてるんだが……。っと、ゆっくりしてる場合じゃないんだよな」
オレは目を擦りながら車のドアを開く。
「家に何かあるのか?」
続いて車から出てきたカイが問いかける。
「ああ。アイが消えた時に残してった物があるんだ」
オレは歩きながらそう返す。
「残した物って?」
オレ達は早足で歩いてエレベーターの中に入ると、そこで少し息を抜く。
「時計さ。そいつだけがアイのいた場所に落ちていた。何もなかったかのように……」
オレはその場面を思い出しただけで、不快な気分になってくる。そして、何も出来ずにただ突っ立っていただけの不甲斐無い自分に腹が立ってくる。
チーンというエレベーターの到着音と共に、
「何か役に立つかもしれないからな」
と、湧き起こってくる感情を押さえつけながら、棒読みのように言葉を発する。
「そう、か」
カイはそれだけ言うと黙ってエレベーターを降りる。付き合いの長いオレの心の内を察したのだろうか……。
オレも続いてエレベーターを降り、自室へと歩き出す。
「ところで――」
オレは部屋の前に着くと、ずっと考えていた事を口にした。
「カイはここに残っていてくれないか」
カイは突然のこのセリフに、一瞬動きが止まる。
「何だって?」
顔をしかめるカイ。
「もしかして、オレをここまで巻き込んでおいて、はいさよならってわけじゃあないよな?」
カイの声には確固たる意志が感じられた。自分も最後まで見届けなくては気が済まないという。
その心は痛いほど良く分かる。しかし、
「カイ、頼む」
オレはただそれだけ言うと、カイの目をじっと見つめる。
これ以上誰も巻き込むわけにはいかないのだ。アイの件は、元はというとオレのせいなのだから。
それに、このままカイも一緒に遺跡まで行って、同じ様に消え去ってしまったら……。
しばらくの沈黙の後、ゆっくりとカイは口を開いた。
「分かったよ。お前の性格は良く知っている。小さい頃からな…」
「すまない」
オレは本当に心からそう思った。
それに対し、カイはただ微笑み返す。
部屋のカギを開けると中へ二人続いて入って行く。
目的の物はリビングの机の上だ。無造作にそれを掴み上げると、ズボンのポケットに入れる。代わりに取り出したカギを、後ろに立っているカイへと投げる。
「部屋のカギだ」
「戻って来ないつもりか?」
カイは真剣な眼差しでオレを見つめている。
「アイを見つけるまでは、少なくとも……」
そう、これだけは自分自身の手で解決しなくてはならない。オレは心の中でそう強く決意した。
五年前、アイと出会ってから――いつの間に、あいつはオレにとってこんなにも大きな存在になっていたのだろうか。
目の前でゆっくりと姿が薄れていき、跡形もなく消え去ってしまったアイを、オレは果たして見つけ出すことができるのだろうか。
ガルデルムの協力を得たとしても、必ずしもアイにたどり着けるとは限らない。
けれども、オレは進み続ける。目の前にほんの一筋でも希望が残っている限り。オレの命がある限り――――




