アイ1
私の名前はアイ。何でも屋をやってます。…といっても、私一人ではなくカズヤっていうパートナーと一緒だけれども。
カズヤとはある事件をきっかけに知り合い、もう五年以上になる。
私たちは気が合うみたいで、色々としているうちに、今の様に一緒に暮らすようになった。けれどもそれは、結婚とかそういうのじゃなくってただの仕事仲間って感じだ。私としてはそういう気が無い訳ではないんだけれど……。
彼自身は分かってないかもしれないけれど、カズヤはちょっとクールでルックスも良し。普通の女の子だったらかっこいいと思うようは容姿をしている。
けれども、当の本人はそういうことには興味なしで、「妹のかたきを討つ」っていう目的のために、何でも屋なんていう変な仕事をしながら情報を集めるようになったというわけだ。そんな訳で、私の心配を余所にカズヤはいつも街を出歩いていて、その結果、カズヤは左腕を失ってしまうなんていう大怪我をする様な事もあった…。
そして、一か月程前、ついにカズヤはその目的を果たしたのだ。
それ以来……カズヤは少し様子がおかしい。なんだかいつもぼーっとしているのだ。今までずっと追い続けて来た目標が無くなって、気が抜けてしまったんだろうと最初は思った。けれども、いつになっても変わる様子はなく、気が抜けているというよりもむしろ思い悩んでいるのではないかという様に最近は見えてきた。
今も私の目の前、屋上で寝転がって、ただぼーっと空を見上げている。私はというと昼食にカズヤを呼びに来たところなのだけれども……。
私はハァーと一つため息をつくと口を開いた。
「カズヤ! またここで寝てるの!?」
するとカズヤは寝っ転がったまま目だけこちらに向ける。
「アイか。何だ?」
その言葉に私はちょっとムッとする。
「何だ、じゃないわよ。またボケーッとしてたんでしょ。最近少し変だよ、カズヤ」
少しきつい口調になってしまう。
「で、何の用なんだ?」
カズヤはそれでも相変わらずの調子で返す。
「何のって、もう昼だよカズヤ。御飯、食べないの!?」
明らかに感情のこもっていると分かる声で私はそう言った。
「ん、もうそんな時間なのか」
カズヤはやっと体を起こし、空を見上げる。太陽の位置でも確認したのだろう。私はこれで大丈夫だろうと思い、
「先に行ってるから。早く来てよ!」
と、小走りに階段へと向かう。
ここは私たちが住んでいるマンションの屋上だ。部屋は最上階の五階なのですぐに部屋へと着く。中に入ると手を洗い、食事の盛り付けに移る。といっても、スープとスパゲッティを二人分に分けるだけなのだが。スパゲッティは私の得意な料理の一つ。味付けには毎回凝っている。今回はエビ・タコ・スパ。
はぁ~私って健気だなぁ、などと思いもするが、カズヤは全然この気持ちには気づいていない様子。それでも私は二人で一緒にいるのは楽しいし、このままずっと一緒にいられたらなぁ、と思っている。現在の関係に甘んじているようじゃだめだとは思うのだけれども、どうしても一歩が踏み出せない。
と、丁度料理を並べ終わった時、部屋の扉が開かれた。
「おっ、いい匂いだな」
カズヤはまっすぐ料理の並んでいる机のところまでくると椅子に座る。
「ちょっとカズヤ、ちゃんと手を洗って!」
私はエプロンを外しながらカズヤに指示する。
「ったく、わかったよ」
カズヤはしぶしぶ立ち上がると手を洗いに向かう。
私はというと、後ろで一つに結んでいる長い髪が邪魔になって、なかなか紐が解けない。
「ほらよ」
そう言って、戻ってきたカズヤは紐を外してくれる。
「あ、ありがとう」
首の後ろに微かに触れたその手にドキッとしてしまう。
「いいから早く食おうぜ」
そんな私の内心など全く気にしていない様子で、カズヤはさっさと椅子に座っている。私は急いでエプロンを椅子の背もたれに掛けると腰を下ろす。そして、二人そろって昼食を食べ始めた。