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カズヤ3

 しばらくの間、沈黙が続いた後、

「分かったよ。それでいい……。命は無事だって事は分かったからな」

 かぶりを振りながらそう言ったカイの顔には、言葉とは裏腹に不快そうな表情が表れていた。

 オレは心の中で「すまない」と謝ると、

「ありがとな」

 小声でそう応える。

「気にすんな、お前とオレの仲だろ。だがな、お前の用事が済んだら、必ずミルト様を助け出すのを手伝って貰うからな」

 その瞳に込められた信頼を、オレは裏切る訳にはいかない。

 オレはしっかりと頷き返す。

「ああ、必ずな」

 そして、後ろを振り返る。

「話はまとまったかな?」

 すぐに、ガルデルムが不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

「ああ、とりあえずな」

 オレはその場から動かず、距離を取ったままで答える。

「場所を教えて貰おうか。お前と仲良く車に乗って行く程の仲ではないしな」

「同意見だ。場所は――」

 オレは、ズボンのポケットからぐしゃぐしゃに丸まった紙を取り出す。Dr.ヤエノに説明を受けたときにメモした紙だ。

「こいつに書いてある」

 そう言って指でピンッと紙をはねる。

 ただの紙1枚がそう遠くまで飛ぶはずもなく、すぐに地面へと静かに落ちていく。

「じゃあな、そこでまた会おう。なるべく急いで行くつもりだが…」

「安心しろ、車なんかよりは早く行ける」

 ガルデルムはそう言うと、すっと空中へ浮かび上がる。いつの間にかその手には、くしゃくしゃに丸められた紙が握られている。

 オレはそれを見届けると体の向きを変え、車へ向かってゆっくりと歩き出す。

 はやる気持ちを抑え、オレは考えをまとめにかかっていた。この後どうするのか、を。

 オレは助手席へと座り、カイが運転席に座る。

「とりあえず、オレの事務所へ」

「りょーかい」

 そう言うとカイは車のエンジンをかける。

 席に腰掛けていると、疲れがどっと押し寄せてくる。アームを使うのは、やはり何か精神的に力を使うのだろうか。

 家まで車で約三十分。疲れと共に眠気に襲われたオレは、知らぬ間に夢の中へと入っていった……。



――カズヤ=ヒイラギ、二十一歳、現在はアイ=アイルと同居。十五歳までは実家で暮らしていたが常に居心地の悪さを感じていたため、親の反対を押し切って家を出る。

 その原因は…目の前で妹、スズ=ヒイラギを殺害された…と思っていた事件。自分の責任で妹が殺されてしまったという意識が、幼心に刻みつけられたがためだ。自らその犯人を捕まえる。そして妹の……。

 そのうちに「何でも屋」という職に就く事になる。様々な情報を集め、その犯人へと辿り着くために。

 そして、その犯人を見つける事になる五年前のあの事件…ガルデルムと名乗ったそいつは目の前でいとも簡単に一人の命を奪った。それがきっかけで、ガルデルムを倒し、自らの手で仇を取ると固く決意した。

 アイとの出会いもその時だった。あの日――


「うるさい…黙れ! お前は何者だ!? 人の過去をべらべらべらべらと!」

 オレは耐えきれずにそう叫ぶ。

 周りは暗い――否、何もないと言うべきなのだろうか。

 オレはただ一人でそこに立っていた。頭の中にどこからともなく響いてくる、聞き覚えのある声。

 声の出所だろう人影は全く見あたらない。


――私? 私が誰か、だって?――


 闇から返ってきたのは笑いを含んだ声。

「そうだ! なぜオレの過去を知っている!? 誰にも話して無い事まで全て!」


――知っているさ。私はお前の全てを知っている――


 その声は、何故か嘘を言っている様には感じられなかった。

 本当にこいつはオレの全てを知っている。そう感じさせるものがその言葉にはあった。

 そして、オレは久しく感じていなかった感情を呼び起こされた。

 それは恐怖…。背筋にぞっとした感覚が走る。

 五年前のあの日から、忘れてしまっていたこの感情。先程も声に絶えられなかったのは、その続きを聞きたくなかったから――

「誰…なんだ?」

 オレは必死に周りを見回す。されども声の主の姿は見えない。


――怯えているのかい? フフフッ、そう君の弱さはそこにある。過去だ。それを乗り越えない限り、君はこれ以上強くはなれない。それじゃあ困るんだよ――


「うるさい、黙れ! お前は何者だと聞いている!」

 オレはただ怒鳴り返していた。目の前の闇に向かって。


――まだ早かった、か。人とは弱いものだな、いつの時代になっても。しかし、運命から逃れることはできない。誰一人として。君もそうだが…私も例外ではない――


「何を…言っているんだ?」

 そう問いかけるが、声はかまわず話し続ける。


――いつか分かるはずさ。君が何を成すべきかは。君は、始まりであり終わりでもある者なのだから――



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