カズヤ2
オレはガルデルムと共に空中で静止したままだった。ヤツが何か能力を使って浮かせているのだろう。
しばらくの沈黙――ガルデルムには、どうやら引き金を引く気は無い様だ。
と、すっと体の力が抜けたかと思うと、止まっていた時が動きだしたかの様に自然に地面へと落ちていく。
受け身を取りながら、着地と同時にオレは後ろを振り向く。
「楽しませてもらったよ」
数メートル先にガルデルムは立っていた。
「そのアームとやらの能力、面白い」
不敵な笑みを浮かべ、こちらを見据えている。
オレは覚悟を決め、口を開く。
「オレの負けだ。で、どうするんだ?」
「おいおい、誤解するなよ」
そう言ってガルデルムはゆっくりと引き金を引いていく。
「こいつには…弾は入っていない」
「カチッ」という小さな音だけが聞こえてくる。
「……どういう事だ?」
オレは気を抜かずに、注意深く目の前の男を見つめる。
ヤツはというと、同じように殺気立ったまま……と、不意にその殺気が消える。
「勝負はお預けだ。今はまだその時ではない」
ガルデルムはそう言うと、黙り込む。
何かを考えているのだろうか……。
――運命とは皮肉なものだな――
「えっ?」
不意の声にオレは思わず声を出し、辺りを見回す。その声は、頭の後ろの方から聞こえた様な気がしたが、誰も見当たらない。
相変わらず考え事をしている様子のガルデルムには、その声は聞こえなかった様だが……。
気のせいなのか? でも、どこかで聞いたことのあるような声だった様な。しかし、はっきりと思い出す事は出来ない……。
そうオレが考えていると、
「おまえの望みを叶えてやろう」
ガルデルムの低い声が響く。
オレは、はっとしてガルデルムに視点を合わせる。
「望みを叶える?」
突然の言葉に聞き返してしまう。
「自分でさっき言っていたではないか。アイとやらの事を知りたいのだろう?」
「どういう風の吹き回しだ?」
オレは思いも寄らなかった答えに、注意深く探りを入れる。
「フッ、お前は信用できない相手に対して、頼み事をしようとして来たのか?」
ガルデルムの的確な言葉に、オレは言葉を詰まらせる。
「ぐっ、そう…だな。もっともだ」
そして一考の後、改めて問い掛ける。
「……しかし、そっちの利益は何なんだ? 慈善行為じゃないんだろう?」
「前文明の遺産が見られるんだ、それで十分だろう?」
そう言ってガルデルムはニヤッと口の端を上げる。まだ何かある。オレはそう思ったが、ヤツにはそれを言うような雰囲気はまるでない。
聞くだけ無駄だな、とオレは判断し、
「オーケー、分かった。それでいいだろう」
そう答える。すると、
「ちょっと待ってくれないか?」
別の声が割り込んでくる。
いつの間にか、すぐ後ろにカイが立っていた。
「カイ、どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃない! 仕事を忘れてるんじゃないのか? ミルト様のことを!」
そう言われてオレは言葉を失う。
そういえばそうだった。ミルトをさらったヤツを追ってここまで来たのだ。
ガルデルムと戦っている内に、そんな事はすっかり忘れてしまっていたが……。
「と、そうだったな。ガルデルム、その件に関してはどうなるんだ?」
改めてガルデルムの方に向き直る。
「どう、と言われてもな。オレが組織に歯向かう理由は何も無いが?」
ガルデルムはわざとおどけた様子でそう返してくる。
「だが――」
それでも食い下がろうとするカイに対し、ガルデルムは冷たく言い放つ。
「自分達で何とかするんだな」
「アイの件はいいのかよ、手伝ったりして」
オレはすかさずそう言い返す。
「それはただの道楽だ。組織も流石にプライベートまでは口出ししてこないのでね」
相変わらずの調子だ。本音を読みとる事は出来そうにない。
「ガルデルム、少し時間をくれ」
オレはそう言うと返事も待たずに背を向けて、カイへと向き直る。
オレなりにヤツを信用した、ということを表したつもりだ。
背後からは何も声は返ってこないが、動く様な気配も感じられない。
そのまま、オレはカイと連れだって、ガルデルムから少し離れた場所まで移動する。
そして、
「カイ、ミルトの件は後にしてくれないか?」
単刀直入にそう言った。
それに対し、カイはじっとオレの瞳を見つめ返して来た。




