ブラッド1
私は重い体を引きずるようにして歩いていた。
あいつにやられた傷は、私の想像以上の物だったようだ。体が思うように動かない…。
しかし、ただやられただけでは無い。私は貴重な情報を得ていた。
まさかあのような物がまだ存在していたとは……。前文明の崩壊と共に、全て消え去ったと思っていた。
だからこそ、我々は活動しているのだ。前文明を支えていた力『アルド』を復活させるという目的のために。
昔は全ての人間が持っていて、ごく普通に使っていた力、アルド。その力で栄えた文明、それが前文明だ。
この程度のことは一般の知識人でも知っていることだ。
だが、私は知っている。その力を持つ人間が、未だ少数ながら存在する事を。
そして、私もその力を持つ者の一人だと。
それを知った時、私はこの組織の存在も知る事となった。
その後、私は組織の一員となり、アルドを使用出来る者による新たな文明を築きあげようとしているのだ。
私がつい先程目にした物は、体中のアルドを自動で一点に集中させる事が出来るという代物。もちろん、今の技術で作り出す事など不可能なのだから、前文明の遺産である事は間違いない。
勿論アルドを持たない現代の人間が使ったところで効果はないのだが……。ということは、使っていた本人にもかなりの素質があるはずだ。
あいつの事はかなり昔から知っていたのだが、何故気付かなかったのか…。
フッ、まあいい。とりあえず、伏線を張っておいた。これであいつの方から組織に近づいてくるのは間違いない。
それよりも、今はこの傷を癒す事を考えねば…。
「バタンッ」
私はとうとう立っている事も出来なくなり、前のめりに地面へと倒れ込む。
と、そこに声が掛けられる。
「なんだ? 貴様傷だらけじゃねぇか」
聞き違えるはずがない。こんな時に一番聞きたくない声だ。
「フェンルルか…」
なんとか声を絞り出す。
「フンッ、無様だな。貴様、組織内でもかなりの能力を持った者だと思っていたが…オレの思い違いだったかな」
フェンルルは見下したような目で、文字通り私を見下ろしている。
「どうとでも言え。今ある事実はオレが重傷を負って動けないという事だ。……どうする? オレに止めを刺すか? 組織内のライバルが減れば、お前の昇格もあるかもしれないぞ?」
私はわざと挑発するようにそう言った。
すると、フェンルルは心底嫌そうな表情をする。そして、言い放った。
「ふざけるな、オレは実力で伸し上がってみせる。お前とは違うのだ、ブラッド=ペイン!」
「その名を口にするな!!」
フェンルルの言葉に私は咄嗟に反応していた。その瞬間だけは、体中に感じていた痛みが吹き飛んでいた。
私はフェンルルを睨みつけ、言葉を続ける。
「その名を口にしていいのは――」
あの方だけだ――そう口にしようとしたその時、胸に激痛が走る。
「うぐっ…」
目の前のフェンルルの姿がぼやけ、意識が薄れていく。
そうして私は、深い眠りへと落ちていった。




